火曜日 , 10月 28 2025

飛行機も次世代燃料へ、Honda Jetが持続可能な燃料で世界初の飛行に成功

2025年10月、一台のビジネスジェット機が歴史の1ページを刻みました。ホンダの航空機事業子会社が開発した「HondaJet」が、持続可能な航空燃料(SAF)だけを100%使った試験飛行に、双発の小型ジェット機として世界で初めて成功したのです。

「SAFって何?」「100%だと何がすごいの?」

そんな疑問を持つ方も多いでしょう。このニュースは、単に「エコな燃料で飛んだ」という話ではありません。私たちが未来の空の旅に抱くイメージを根底から変える、大きな可能性を秘めています。

この記事では、HondaJetが成し遂げた快挙の裏側と、私たちの未来にどう関わるのかを、誰にでもわかるように、そして詳しく解説していきます。

そもそも「SAF」って何?天ぷら油がジェット燃料に?

SAF(サフ)とは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、日本語では「持続可能な航空燃料」と呼ばれます。

従来のジェット燃料が石油(化石燃料)から作られるのに対し、SAFは使い終わった天ぷら油(廃食油)や、トウモロコシ、木くず、都市ごみ、さらには大気中のCO2など、再生可能な資源や廃棄物を原料にして作られます。

なぜSAFは環境に優しいの?

SAFが環境に良い最大の理由は「カーボンニュートラル」という考え方にあります。

  • 従来の燃料:地中に大昔から閉じ込められていた炭素を燃やし、大気中のCO2を一方的に「増やす」。
  • SAF(植物由来の場合):原料の植物が成長過程で光合成によってCO2を「吸収」する。それを燃やしてCO2が出ても、もともと大気にあったものを再利用しているだけなので、全体としてCO2の総量は「増えない」という仕組みです。

この仕組みにより、SAFは原料の収集から製造、燃焼までのライフサイクル全体で、従来の燃料に比べてCO2排出量を約60%~80%も削減できるとされています。

SAFのすごいところ:今の飛行機でそのまま使える!

さらに重要なのが、SAFが「ドロップイン燃料」であるという点です。これは、化学的な性質が従来のジェット燃料とほぼ同じなため、エンジンや給油設備などを一切改造することなく、そのまま使えることを意味します。

水素飛行機や電動飛行機は、機体や空港インフラの全てを新しくする必要があり、実現には莫大な時間とコストがかかります。しかしSAFなら、今飛んでいる何万機もの飛行機をそのまま活用しながら、すぐにでもCO2削減を始められるのです。

HondaJetの「100%飛行」が画期的な理由

「SAFが使えるなら、どんどん使えばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、そこには大きな壁がありました。

現在の国際的なルールでは、安全性を確保するため、SAFは従来のジェット燃料に混ぜて使うことが義務付けられており、その混合率は最大でも50%までと定められています。

HondaJetの挑戦は、この「50%の壁」を打ち破り、SAFだけ(100%)で安全に飛べることを証明した点に大きな意義があります。

なぜ100%は難しかった?

実は、SAF(特に廃食油から作られる主流のHEFAタイプ)には、従来のジェット燃料に含まれる「芳香族(アロマティクス)」という成分がほとんど含まれていません。

この芳香族は、燃料配管などに使われるゴム製のシール部品を適度に膨らませて、燃料漏れを防ぐ重要な役割を担っています。芳香族がない100%のSAFを使うと、シールが縮んで燃料漏れのリスクが生じるため、50%の混合が必須とされてきたのです。

Hondaはどう解決した?

Hondaは、この課題を解決するために、2種類の異なるSAFを精密にブレンドするという画期的なアプローチを取りました。

  1. HEFA-SPK:廃食油などから作られる、現在最も普及しているSAF。
  2. HDO-SAK:芳香族成分を人工的に合成して作られた特殊なSAF。

この2つを混ぜ合わせることで、従来のジェット燃料とほぼ同じ成分を持つ「100%持続可能な燃料」を作り出し、燃料漏れのリスクをクリア。見事に100%での安定飛行を成功させ、性能も従来の燃料と変わらないことを証明したのです。

SAFがもたらす、CO2削減“以外”の驚きの環境効果

SAFのメリットはCO2削減だけではありません。近年の研究で、もう一つの重要な環境効果が明らかになってきました。それは「飛行機雲の削減」です。

飛行機雲は、エンジンから排出される「すす粒子」を核にしてできる人工の雲で、地球の熱を宇宙に逃がさず、温暖化を促進する効果があることがわかっています。

SAFは成分がクリーンなため、燃焼時のすす粒子の排出量が劇的に減少します。ある研究では、100%SAFで飛行した場合、飛行機雲の元となる氷の結晶が56%も減少し、温暖化効果を26%以上低減できる可能性が示されました。

つまりSAFは、「CO2削減」と「飛行機雲削減」という二重の効果で、地球温暖化の抑制に貢献できるのです。

未来の空への離陸は順調?残された大きな課題

HondaJetの成功で技術的な道は開かれましたが、世界中の飛行機がSAFで飛ぶようになるには、まだ大きな課題が残っています。

  • 高すぎるコスト:SAFの製造コストは、従来の燃料の2倍から10倍以上と非常に高価です。
  • 圧倒的な生産量不足:現在のSAF供給量は、世界のジェット燃料消費量の**わずか0.03%**ほど。日本政府は2030年までに燃料の10%をSAFにする目標を掲げていますが、達成は非常に困難な状況です。
  • 原料の確保:主原料である廃食油は供給量に限りがあり、世界中で争奪戦が始まっています。今後は都市ごみなどを活用する新技術が不可欠です。

これらの課題を解決するには、技術開発はもちろん、国による政策的な支援や大規模な投資が不可欠です。

Hondaの挑戦は続く。その先に見据える「究極の燃料」

今回の成功は、Hondaが掲げる「2050年までに製品も企業活動もカーボンニュートラルにする」という壮大な目標に向けた、重要な一歩です。

Hondaは、SAFの安全性や国際基準を作るための活動にも積極的に参加し、業界全体をリードしています。

さらにHondaは、その先も見据えています。バイオマス資源の量に左右されない究極のクリーン燃料として、大気中のCO2と再生可能エネルギーで作る水素を合成して生み出す「e-fuel(合成燃料)」の研究開発にも力を入れているのです。

未来の空への滑走路は拓かれた

HondaJetが成し遂げた100%SAFでの飛行成功は、航空業界の未来を照らす大きな光です。それは、技術的には化石燃料から脱却できる可能性を明確に示しました。

しかし、この技術を世界のスタンダードにするためには、コストや供給量といった巨大な壁を乗り越えなければなりません。

Hondaのような企業の挑戦が滑走路を整え、今、社会全体でその離陸を後押しすることが求められています。私たちの手で、クリーンな空の旅を当たり前にする未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

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About Electric Manager

大学時代に電子工学を専攻し、電気自動車やソーラーカーの研究を行う。 電気工事士の資格も持ち、自動車メーカーでの電気自動車関連の仕事や電力会社での電気工事、その後は充電スタンドV2Hの営業など弱電から強電まで広いエリアを専門としています。

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