テスラ マルチパス(Tesla Multi-Pass)
テスラが、欧州におけるEV充電体験を根本から変える可能性のある新サービス「テスラ マルチパス(Tesla Multi-Pass)」の展開を本格化させています。
これまでテスラ独自の「スーパーチャージャー」網がオーナーの充電体験を支えてきましたが、「マルチパス」は、テスラ以外の無数のサードパーティー製充電ネットワークを、テスラアプリやキーカードひとつでシームレスに利用可能にするものです。
テスラ「マルチパス」とは?
「マルチパス」は、テスラオーナーが欧州の多様な公共充電ネットワークを、テスラアカウントを介して直接利用・決済できるようにするサービスです。
1. 狙いは「充電体験の分断」の解消
欧州ではEVの普及に伴い多数の充電事業者が存在しますが、それぞれが独自のアプリ、RFID(IC)カード、決済システムを要求するため、ユーザーは「充電カード地獄」とも言える煩雑さに直面していました。「マルチパス」は、この分断された体験を、テスラの洗練されたエコシステム(アプリとアカウント)に取り込むことを目的としています。

2. ネットワークアグリゲーターとの提携
テスラは「マルチパス」実現のため、単独ではなくネットワークアグリゲーター(複数の充電網を束ねる事業者)と提携しています。これにより、一度に欧州全土の1,000を超える充電ネットワーク、数千箇所以上の充電ステーションへのアクセスを可能にしました。
3. 展開状況:オランダから欧州主要国へ
2025年9月にオランダで試験的に開始されたこのサービスは、同年11月にはドイツ、フランス、イギリス(英国)、スウェーデン、ベルギーといった欧州の主要市場へと急速に拡大しています。
マルチパスの具体的な使い方(設定から利用まで)
海外ユーザーの報告によると、利用開始までのプロセスは非常にシンプルです。
ステップ1:アプリでキーカードを有効化(アクティベーション)
- 対象となるテスラオーナーのテスラアプリの「メッセージ(受信トレイ)」に、「マルチパス」への招待が届きます。
- 「詳細」などをタップし、画面の指示に従います。
- クルマの解錠・始動に使用しているテスラキーカードを、スマートフォンのNFC(近距離無線通信)リーダーにかざして登録します。
- これでキーカードが「充電カード」としても有効化されます。

ステップ2:充電器の検索
- テスラアプリ: アプリのマップ上に、スーパーチャージャーと並んで「マルチパス」対応のサードパーティー充電器が表示されます。
- 車載ナビゲーション: 車のタッチスクリーンでナビ設定を開き、「サードパーティーの充電ステーションを表示」オプションを有効にする必要があります。これにより、ナビ上でも対応充電器が検索・表示されるようになります。
ステップ3:充電の開始と終了
充電の開始方法は、スーパーチャージャーの利便性に限りなく近づけられています。
- 方法A:キーカードをタップ サポートされているサードパーティー充電器のNFCリーダーに、登録済みのテスラキーカードをタップするだけで認証され、充電が開始されます。
- 方法B:アプリから操作 テスラアプリを開き、マップから利用したい充電器を選択し、「充電開始」をタップして遠隔でセッションを開始することも可能です。
充電終了も同様に、キーカードのタップまたはアプリ操作で行います。
料金と支払いシステム
「マルチパス」の最大の利便性の一つが決済です。
1. 支払いはテスラアカウントに一本化
充電料金は、テスラアカウントに登録されている支払い方法(クレジットカードなど)に自動的に請求されます。これはスーパーチャージャーの利用料金と同じ仕組みであり、充電事業者ごとに個別の支払い情報を登録する必要は一切ありません。
2. 料金体系は事業者依存
重要な注意点として、充電料金はテスラが一律に設定するわけではありません。料金はあくまで、各サードパーティー充電事業者の設定に基づきます。
このため、利用する充電器によって1kWhあたりの単価は変動します。ユーザーは充電を開始する前に、テスラアプリまたは車載ナビ上で表示される料金を必ず確認する必要があります。料金はスーパーチャージャーより高い場合も安い場合もあります。
マルチパスが持つ戦略的な意味
このサービスは、単なるオーナーの利便性向上にとどまりません。
- スーパーチャージャー網の補完: スーパーチャージャーが設置されていない都市中心部や目的地(ホテル、商業施設など)での充電(目的地充電)をカバーし、「どこでも充電できる」という安心感を提供します。
- テスラエコシステムへの囲い込み: 充電というEV利用における最重要体験をテスラアプリで一元管理させることで、ユーザーの利便性を高め、テスラエコシステムへの依存度を強めます。
- 「充電」のプラットフォーマーへ: 自社網(スーパーチャージャー)の他社開放と並行し、他社網(サードパーティー)を自社プラットフォームに取り込むことで、テスラは欧州の「充電」における最大のプラットフォーマーになることを目指していると分析されています。

テスラの「マルチパス」は、欧州の複雑な充電インフラを「テスラ体験」で統一しようとする野心的な取り組みです。
- 1,000以上のサードパーティー充電網に接続。
- テスラアプリとキーカードだけで認証・決済が完結。
- ドイツ、フランス、英国など欧州主要国で展開中。
- 料金は事業者ごとに異なるが、支払いはテスラアカウントに一本化。
現時点で日本市場への導入に関する情報はありませんが、EV充電の「相互運用性」における一つの理想形であり、今後のグローバルな展開が注目されます。
日本に導入されれば、EMPも大きな恩恵を受ける
ここまでの内容から、もし日本でこのシステムが導入されれば、日本最大の充電ネットワークであるe Mobility Powerも一気に活気づくことになります。

日本では、まだ販売しているメーカーの営業マンも電気自動車(EV)の特性を理解している人が少ないため、カーライフ全体を見通してアドバイスができておらず、せっかくEVを購入しても「不便」と思いすぐに売ってしまうケースが多くなり、リセールバリューも下がっています。
この悪循環は確実に販売メーカー側にあります。EVはエネルギーをチャージするときにガソリンスタンドと同じ考え方で充電するのではありません。このあたりがきちんと説明できていれば、現在の充電ネットワークでも上手に使える筈です。なぜなら充電は基本的に「自宅」で行うからです。しかし、遠出した時や旅行時は、急速充電器を使う場合があります。このときの理想はテスラのスーパーチャージャーのような運用です。
テスラユーザーの取り込みはEMPの売り上げに貢献する
日本では高速道路上にはテスラのスーパーチャージャーは無く、現状ではテスラで高速道路を利用中にスーパーチャージャーを使う場合は、サービスエリアの真横にあるにもかかわらず一度ETCで降りて回り込みサービスエリアの横まで戻ってきて充電し、サービスエリアを利用するという非常に不可解な状態になっています。(新東名の浜松などはまさにそのような状態)

日本国内のEV利用者で最も多いのは日産のリーフ、ついで日産サクラ、そしてテスラも3万台程度のユーザーがいると予想されます(※このデータは当サイトの独自の推定値であり、その推測根拠はこちらをご覧ください。)。長距離を走れるテスラユーザーの取り込みは、割高かな充電ネットワークの料金でも、必要な充電となるため、現在よりも利用者が拡大する事になるでしょう。
日本車やBYDなどチャデモを採用しているEVの利用者の場合でも充電カードを持つハードルが高い状態になっており、利用者にとって良い状態だとはとても言えません。すでに車両とクレジットカードが結びついているテスラを取り込むことで、EMPの売り上げが向上しチャデモの仕様もこのような仕組みに切り替えていく事が必要になってくるでしょう。または、これを超える新しい利便性をEMPが提供し、それがすべてのメーカーのシステムに対応できるようになるか、選択肢はどちらかと言えます。
関連リンク
- Electrek: Tesla launches ‘Multipass’ in more markets for frictionless third-party charging
- electrive.com: Tesla launches “MultiPass” in more countries – including Germany
- Teslarati: Tesla MultiPass in Europe expands, allowing ease of access to non-Tesla chargers
- EVANNEX: Tesla’s MultiPass Rolls Out to More Countries for Effortless Charging
ELECTRICLIFE – エレクトリック・ライフ! 電気自動車(EV)・電化・再エネ活用でカーボンニュートラル実現へ!