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テスラが宮古島で展開する日本最大級の電力事業

宮古島で普及が進むテスラ・パワーウォール

今、宮古島で米テスラ社のエネルギー事業である太陽光発電システムとテスラの蓄電池「パワーウォール」の導入が進んでいます。2021年より、宮古島VPP(バーチャル・パワー・プラント)事業として島内にテスラ・パワーウォールを設置し、電力の安定供給を行っていくというものです。宮古島内での設置台数が300台を超え、家庭用蓄電池を活用し商業利用したVPP事業としては日本最大級のものとなります。

宮古島のような離島での取り組みはマイクログリッドと呼ばれる小規模エリアでの電力の安定供給を考える上で、すべてのエリアで参考になる話です。これらはどのような取り組みになっているのでしょうか。

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宮古島の島嶼(とうしょ)型スマートコミュニティ事業

宮古島は東京から約2,000km、沖縄本土からは300kmの距離に位置していて、台湾と沖縄のちょうど中間地点にある島嶼(とうしょ、とは大小の島々という意味)エリアにあります。サンゴ礁からなる島で、人口55,000人で、年平均気温が23.3℃と温暖な亜熱帯性気候です。台風による影響を受けることでも知られていて、大きな河川も無いため、干ばつなども受けやすい厳しい自然環境にあります。


宮古島の産業と言えば観光と農業です。サンゴ礁の美しい海での景観やスポーツアクティビティ、島でとれる南国の農産物などが人気を集め、観光客は年々増加し、年間100万人を超え、今後も増加する傾向にあります。これらの影響により観光収入は増加していますが、その一方で、観光のためのインフラ整備による自然環境への負荷が懸念されていました。また、大きな島から離れた「離島の離島」ともいえる宮古島では食糧やエネルギー資源が少なく、それら資源は島外依存になっているという問題もありました。

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このような状況では、今後観光客の増加により、宮古島の自然環境への負荷が更に大きくなる懸念があるため、いつまでも住み続けられ、かついつまでも多くの観光客を受け入れられるような「持続可能な島づくり」が重要であるとして、この「島嶼(とうしょ)型スマートコミュニティ実証事業」が2011年からスタートし、2020年まで行われました。

このプロジェクトは再生可能エネルギーでの発電により、島内でのエネルギー自給率を高め、そのエネルギーを効率的に活用するためIT技術を駆使し、地域経済の活性化や雇用創出を行う事を目的としています。島内のエネルギー自給率は2010年の段階でたったの1.5%で、ほとんど島外依存でしたが、2030年までには22.1%とすることを目標に掲げています。

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宮古島のエネルギー自給率向上への取り組み

離島では、ガソリンや天然ガスなどのエネルギー確保のために輸送コストがかさむ為、エネルギーコストが割高になる傾向があります。これら化石燃料のコストはそれ自体も年々高騰しているため、島内で行われていた産業を継続するのが困難になり、産業の島外流出や生活コストの上昇などにより人口減少などにつながる恐れがあります。

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船や飛行機での運搬は台風の多い季節には滞ることも。

そのため、エネルギー自給の中でも電力の確保に力を入れることになり、再生可能エネルギーの太陽光発電(PV:Photovoltaic)増強に力を入れています。

2016年には22MWだったPV発電量を2030年には128MW、2050年には208MWまで引き上げることを目標にしています。

電力の見える化と電力の制御(EMS)

太陽光発電は、天候に大きく左右されることになり、また過剰に発電した場合には電力を無駄にすることになってしまいます。これらをITを活用して上手に制御することで、調整力を持った効率的な電力利用をしていこうという取り組みがスタートしました。そのためにまず必要なのがエネルギー・マネジメント・システム(EMS)の導入です。家庭用(Home EMS)、産業用(Factory EMS)を導入し、どのように電力が利用されているかを「見える化」することで電力の利用状況を把握します。これらをインターネットで接続し、クラウド制御システムにより、電力使用量をコントロールしていきます。

この時に必要になるのが、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS:Battery Energy Storage System)、いわゆる蓄電池の活用という事になります。再生可能エネルギー、特にPV発電で作られた電力余剰分はこのBESSに充電され、電力のピーク時や天候が悪い時などに使われます。この時のBESSとして利用されているのがテスラのパワーウォールという事になります。

パワーウォールによるバーチャル・パワープラント事業

テスラのパワーウォールはスリムなボディで場所も取らず、蓄電池としては大容量の13.5kWhの電力を蓄えることができます。そして圧倒的に低価格であることで、日本国内でも人気の蓄電池となっていて、一般家庭への導入実績も急増しています。再生可能エネルギーの固定買い取り制度10年(FIT)の期間を終えた人たちはその後の太陽光発電の活用として蓄電池が欠かせません。その時選択されるのがコストパフォーマンスに最も優れた蓄電池であるテスラのパワーウォールになっているのです。

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導入費無料で使っただけ電気代を支払う

宮古島では、このテスラ・パワーウォールを各家庭に導入し、VPPで島内の電力の安定供給を行っています。先に紹介した「島嶼型スマートコミュニティ事業」により実証実験を行い、VPPを実現するためのITを活用したネットワークを構築し、事業終了後実用化がスタートしています。

この事業の魅力は、初期設置費用ゼロで太陽光発電システムと蓄電池設置が行える事です。島民は、パワーウォールから電力を使っただけ電気料金を支払う仕組みになっていて、初期にかかる大きな費用負担をしなくて良い事になります。このような仕組みは多くの島民の支持も集めています。

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VPPを構築するためには、設置された島内のパワーウォールが全てグリッドに接続され、ITにより最適な充放電がコントロールされる必要があります。これらが既に実証実験の際に構築され実用化に至っています。

これにより、島内電力需要のひっ迫が生じた時には、太陽光発電による電気をパワーウォールへ蓄電し、電力を大量に必要とする時間に放電を行います。宮古島では台風時期の停電は当たり前でしたが、各家庭に電力が蓄電されているため、系統からの電力供給が途絶えても、自宅で電気が使えるようになっています。台風時期にも電気が使えるありがたさを多くの人たちが実感しているようです。

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2022年末までには400台の設置を目指していて、次の2023年では600台の設置を目指しているという事です。この成功事例は離島だけでなく、市町村単位のマイクログリットの構築の参考にもなるため、日本全国のスマートコミュニティ構築のソリューションとして全国に波及していくことでしょう。

地域の特性に合わせたEMSの開発がカギ

宮古島のスマートコミュニティのカギは家庭・産業用に用意されたエネルギーマネージメントシステム(EMS)にありそうです。テスラのパワーウォールは日本国内で使われている家庭用EMS(HEMS)の規格ECHONETなどには採用しておらず、独自のソフトウェアにより、スマホでどこに居ても現在の電力使用量が確認できます。

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宮古島の例でも実証実験期間に開発が行われてきた独自のEMSが宮古島の電力事情に最適化された動きによって、グリッド内で効果的に電力の充放電が行われています。パワーウォールには「ストームウォッチ」と呼ばれる機能がついていて、事前に天気予報などから嵐の搭載を察知して、事前に蓄電しておき、停電に備える機能は既に備わっています。しかし、実際は一般家庭に導入されているテスラパワーウォールについては、うまく動作していません。しかしながらパワーウォールはインターネットに接続され、ソフトウェアのアップデートによりこれらの機能がどんどん改善されていきます。この点が他蓄電池と大きく異なるところです。

つまり、今後各スマートコミュニティで最適化されたソフトウェアは、グリッドに接続されていない個人のパワーウォールのアップデートにも生かされていく可能性があります。

テスラのパワーウォールが日本で販売を開始したのは2020年の事です。2011年から島内のエネルギー自給率を高めるための取り組みを行ってきた宮古島はその実証実験を終えたころに日本上陸を果たしたテスラのパワーウォールを採用しています。既に実用化が始まっているVPPによる電力の安定供給の基盤を支えているテスラ・パワーウォールは、この実例も手伝って、更に国内でそのシェアを伸ばしていく事でしょう。

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