日本市場にやってくる巨大EVメーカー「BYD」
すでに2022年7月の段階で日本市場への進出を発表した中国の自動車メーカーBYD(比亜迪)は元々携帯電話や家電製品のバッテリの製造メーカーでした。携帯電話用バッテリでは世界1位のシェアを誇ります。その後自動車業界への参入を果たし、2008年にはプラグイン・ハイブリット車を中国市場でリリースしました。
そして、2022年7月21日、BYD JAPANを設立して日本の乗用車市場に3つの電気自動車(EV)を投入すると発表しました。
日本では、日産自動車、三菱自動車がEV市場を10年以上牽引してきました。とはいえ、日本市場では電気自動車の普及率は2022年の段階でも新車販売台数全体の中で3%程度となっていて、全く市民権を得ていません。それどころか、EV自体の存在すら知らない人が多くいるという、世界の先進国の中でも圧倒的にEV化が遅れている市場といえます。
海外メーカーは既に多数のEVをリリース
現在日本メーカーでは日産がリーフ、アリア、サクラの3車種をリリースしているのが最も多い状態で、海外メーカーはどんどんEVシフトを進めています。例えばメルセデスベンツなどはすでに日本市場で5車種のEVを販売し、BMWは5車種、テスラも4車種(新車は現在2車種注文可)となっていて、そのEVとしての性能は、日本のそれを大きく上回っています。
つまり、日本で入手できるEVの殆どが海外メーカーのものばかりという状態になっているという事です。そして、以前からの日本市場で自動車販売を行っているメルセデスベンツやBMW、VolvoやAudiなどが次々EVの新車種をリリースする中、若者を中心に輸入車で最も売れているEVになっているテスラや、再上陸した韓国ヒョンデ(Hyundai)、そして今後はBYDを筆頭に中国製EVが大量に日本にはいってくることになります。
BYDは突然やってきたわけではない
BYDは実は随分前から日本で事業展開を行っています。携帯電話バッテリーはもちろんの事、電動バスを2015年から日本に納車しています。当時、京都急行バスに5台のEVバスを納車し、その後も日本各地へ納車が進んでいます。導入の決め手になっているのは、導入コストが圧倒的に安く、EVになることでランニングコストが大幅に削減できること、そしてメンテナンス面でも他社よりも良い評価になっているようです。
再生可能エネルギー分野でも蓄電池で参入
他にもBYDは、電気フォークリフトであったり、同社の電池技術を生かして、VPP(仮想発電所)などでの電力利用に関するコンサルを行うなど、日本企業との連携により、再エネ分野でも日本と深くかかわりがあります。家庭用の蓄電池などもリリースしており、今後は大規模なソーラー発電や風力発電などの再エネにより得られた電力の蓄電などの分野でも広く知られていく可能性があります。
2010年には群馬県太田市の金型工場を買収
自社の電池技術を応用して、EVへの投資を始めたBYDは、2010年には、自動車産業で栄えた群馬県太田市の自動車金型工場「オギハラ」を傘下に収め、日本車の精巧な車体を成形するための金型技術を手に入れ、高いクウォリティの車体の製造を可能にしました。
トヨタが唯一発表しているEVもBYDと共同開発
世界の自動車産業のトップに君臨する「TOYOTA」ですが、日本市場ではまともにEVを1台も販売していません。トヨタ自動車が販売しているEVは「bZ4X」だけとなっています。これはトヨタ・スバルとの共同開発により誕生したものですが、ここにBYDもかかわっています。bZ4Xは前年ながら日本ではまだリース販売のみとなっています。
トヨタは2019年の段階でEVの研究開発に関する合弁会社設立に向けた契約を締結し、2020年4月にはBYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニーが誕生し、EVの共同研究を行っています。また、今後トヨタのBEV(バッテリーEV)への電池供給という面でも提携を発表していることから、トヨタとBYDの結びつきは今後もより強いものになっていくと予想されます。
BYDの中国でのEV販売
中国市場で2021年に生産された新エネルギー車はおよそ354万台で、そのうちBYDの車両はおよそ60万台(うちBEVは約32万台)となっています。完全な電気自動車(EV)の販売台数だけで見ると、ベスト3は1位が上汽通用五菱汽車(Wuling )で約42万台、2位がテスラで約32万台、3位がBYDの約29万台となっています。
急速に世界に拡大するBYDの販売
2021年グローバルでのEV販売台数を見てみると1位は断トツでテスラがおよそ93.6万台を市場にリリースしています。BYDは2位となっていて、59.3万台を販売しています。
直近2022年9月のデータでは、NEV(新エネルギー車)の販売台数は9月の1ヶ月で20万台を超えていて、8月比で15%以上伸びており、年末までに月間28万台以上の出荷を目指しているようです。
昨年1年間で60万台のNEV売上という記録も今年のデータが集計された頃には、霞んでしまいそうな勢いです。
すでに内燃機関の生産を中止しEVに注力している
BYDは、既存自動車メーカーでは中々発表できていない、内燃機関車(ガソリンを使った自動車)の生産中止を発表している自動車メーカーです。将来的な生産中心を発表しているメーカーは沢山あるも、2022年の段階でEVだけにシフトした自動車メーカーは、EVスタートアップを除いては、BYDだけでしょう。
全ての経営資源がEVに向けられているBYDのグローバル展開は更に急速に進んでいく事が予想されます。今年中には日本市場での販売価格も発表され、いよいよ2023年1月からは販売も開始され、新たなEVメーカーが日本市場に次々と車両を投入してきます。
実際に購入できる車種が少ない国産勢
2022年10月現在、国産メーカーでまともに購入できる電気自動車の車種はびっくりするほど少ない。大手自動車メーカーのものでいえば、日産からリリースされているリーフ、アリア、サクラの3車種、トヨタbZ4X、スバル・ソルテラ、レクサスUX300e、ホンダe、マツダMX-30e、三菱自動車はeKクロスEVと、まもなく再販スタートするミニキャブミーブです。
しかし、実際は生産できない状態のものが多く、日産リーフ、サクラ、UX300eの3車種くらいしかなく、あとは納期未定という答えが返ってきてしまいます。
EVのアーリーアダプタは、日産リーフか輸入車
2050年に向けたロードマップでは、2035年の中間報告の段階で、自動車産業からの脱炭素へ向けた動きも大きな成果を上げていないといけない状態です。海外勢が積極的にEVシフトを行い、消費者へも啓蒙活動を強く行っている中、日本の自動車メーカーの在り方は、これで大丈夫でしょうか?
このような問題に敏感に反応する「アーリーアダプタ」はテスラなどの最新電気自動車や国産でいえば安定して販売を続けている日産リーフなどを所有し、すでにライフスタイルを新しい時代に適応させていっています。
水素など未来への新しいエネルギーへの期待もありますが、2050年までのロードマップの中でのモビリティ産業のエネルギー利用は、ほぼ確定していると言っても過言ではありません。
トヨタがリードしなければ、日本の自動車市場のニーズは変わらないから大丈夫だという声もきこえますが、果たしてiPhoneやGalaxyのような先進性と美しい外観をもつ自動車を使いこなしているユーザーを見て、エクスペリアやアクオスを頑なに使い続けるZ世代がどれくらいいるのでしょうか。
BYDとトヨタの関係に今後も注目です。