土曜日 , 10月 12 2024

電力価格の高騰は何がまずいのか?

電力ひっ迫により、自宅に電気が届かなくなる可能性

2022年6月末になり、梅雨明けが宣言され、雨の少ない梅雨の時期が終了し、一気に真夏のような日が続いています。6月の段階で7月を飛び越し、8月のような陽気が続き、その影響で電気の需給が非常にひっ迫した状況にあるのは連日のニュースでご承知の通りでしょう。

日本は東日本大震災後から原発による発電が殆ど行われておらず、火力発電が中心となって電力の供給を行っています。2011年と比べても社会全体での電力需要は増え続けている一方で、地震や洪水などの災害が多い日本ではその影響により発電所の稼働停止を余儀なくされているところもあるため、発電能力は全体で低下しています。

火力発電所 エレクトリックライフ ELECTRICLIFE.JP
火力発電所 JERA(南横浜火力発電所)

一般家庭に供給されている電気は、契約している電力量を超えて使おうとするとブレーカーが落ちて、家中がブラックアウトします。これと同様に、日本全体で使用している電気の量が発電している電気の量を超えると電力の供給ができなくなり、電気は止まります。

今、日本はどういう状態なのか?

では、今現在日本はどういう状態なのかというと、国立情報学研究所が電力データをとりまとめて日々公表しているデータで確認できます。例えば2022年6月30日のデータを見ると、東京電力管内では、午前8時55分に102%となり、発電量を使用量が上回っています。9時55分の段階では98%となっていますが、いずれもいつ100%を超えてもおかしくない事態になっています。

電力ひっ迫 新電力 エレクトリックライフ
※クリックで写真の拡大が可能です。(2022.6.30電力消費量)

この状況はとにかく電力を必要としている人が多いため、電力卸売市場(JEPX)では、多くの電力小売業者が電力を欲しがっている状態ですから、その市場価格は高騰していきます。

とんでもない赤字運営が続く新電力

2022年6月29日日本電力取引所の東京エリアプライスが16時~18時までの間で200円/kWhを記録しました。通常新電力の電気代はおおよそ26円/kWh前後ですから、およそ7.7倍の電気料金になっているという事です。しかし実際には、自宅の料金は26円前後のままという事です。(後述する燃料費調整という価格については毎月変動し、その分は電気代が高くなっています。)

これは何を意味しているか?

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簡単に言ってしまえば、16時~18時の間、新電力は電気を200円で仕入れて26円で販売しているという事になります。6月29日は6時~6時半の30分間が最も安い時間帯で28.23円/kWhですので、1日中赤字だったという事です。そして日中から夜にかけては、信じられないような損失が拡大していっているという事になります。

加入者が多ければ多いほど、電力を使われれば使われるほどこの損失が拡大していくという事になります。ちなみに昨年2021年と今年の6月30日の電気料金の比較が以下の通りです。グラフの縦軸の数値に注意してみてもらえばわかる通り、昨年は最高でも9.36円/kWhでした。価格差190.64円でおよそ20倍の価格になっています。

電力ひっ迫 新電力 エレクトリックライフ
環境市場 東京のシステムプライス比較

そして、この状況がまだ6月末であるというのがとても深刻な状況です。

もう何がまずいかお判りいただけたかと思いますが、これから長い夏が始まるわけで、7月、8月、9月と暑い日が予想されるわけですから、更に電力の需要は上がっていきます。現状で東京電力管内で100%を超えるような状況が起こっているわけで、他のエリアから供給を補ったとしても、他のエリアの需要も上がってくるため、日本全体が飽和状態になるのは容易に想像できます。

そしてこれは電気料金の値上げへとつながり、新電力については事業の継続が難しくなるという事になります。

市場価格高騰で事業撤退する新電力

実はこの流れはすでに起こっています。帝国データバンクの調べによれば、2021年4月末までに登録があった新電力会社(登録小売電気事業者)は706社ありましたが、2022年6月8日の段階で104社が倒産・廃業・電力事業からの撤退を行っています。2022年の1月も電力がひっ迫し電力が落ちる寸前にまでなったため、市場価格も高騰し、既に新電力は厳しい状況に追い込まれていました。

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そのため現在でも事業を継続している新電力の殆どが新規契約を一時停止しています。加入者が増えれば増えるほど損失幅が拡大するからです。

大手携帯電話会社や発電事業も行っている新電力会社など、主たる事業が他にある企業などは、新規契約を継続しているところもあります。

<現在でも申し込みを受け付けている新電力の例>

燃料費調整価格は毎月値上げ中

東京電力エナジーパートナーは、2022年6月29日に燃料費調整についての今後の価格変動を発表しました。この燃料費調整の価格は数カ月前の情報により決定されます。そのため、2022年3月~5月の燃料価格(原油・LNG・石炭の貿易統計価格)が公表されたことにより、この価格が発表されました。下の表からわかる通り、徐々に値上げの方向に向かっています。不安定な大陸での社会情勢やインフレ、円安など様々な値上げリスクも待ち構えています。

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これにより、決定された燃料費調整は以下の通りで、新電力もほぼこの価格が通常の電気代に上乗せされてきます。

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電気代自体が値上がりしたわけではありませんが、この燃料費調整単価が値上がりしていることから、その分価格が上昇しているという事になります。

再エネ賦課金は1年ごとに決まる

再エネ賦課金とは、再生可能エネルギーで発電した電力を普及促進させるために使われる費用を電気力利用者全員で負担していこうというもので、固定買い取り制度などを好条件にするためなどに使われています。

これは毎年1回価格改定が行われ2022年5月~2023年4月までは3円45銭となっています。

一般的な例で考えるといくら変わってくるか?

一般家庭で1ヶ月に500kWhの電力を利用しているとして、26円/kWhの契約だとすると、7月は、

  • 電気代:500kWh × 26円 = 13,000円
  • 燃料費調整額:500kWh × 4円15銭 = 2,075円
  • 再エネ賦課金:500kWh × 3円45銭 = 1,725円

これと電力会社の基本料金、消費税などの合計が電気代になります。

燃料費調整額について毎月値上げが行われる状況であるため、実質支払い総額が増えていますが、電気料金単価については契約があるため実際には変動していません。原油やLNG・石炭などの「燃料」がとにかく値上がりしているという事を押さえておきたいところです。

契約している新電力が撤退するとどうなるか?

このような状況であれば、今後も事業撤退を余儀なくされる新電力が更に増えることも予想されます。自分が契約していた電力会社が突然倒産してしまったというケースもあり、この場合次の新電力と契約するか、大手電力会社(東京電力や関西電力など)が用意している経過処置プランとして自由化前の料金設定プランへと自動的に切り替わるため、電力が供給されないという事はありません。新電力が新規契約を一時的に打ち切っている場合もあるためこのような救済プランが用意されています。

実際にこの経過処置プランを利用している「電力難民」と呼ばれる件数は増加していて、2022年3月には5,477件、5月には1万3,045件となっています。

前述した通り、発電所を持たない新電力や、現在発生している逆ザヤによる大きな損失を補填できるような主たる事業を持っていない新電力は今後厳しい選択を強いられます。

今年の冬の方が危ない

ここまでで、今年の夏は電力ひっ迫が危険な状態になることは誰でも予想がつくと思いますが、更に危険なのが今年の冬という事になります。冬場の電力消費量は夏場よりも圧倒的に多く、また再生可能エネルギーからの発電量が大幅に落ちる時期でもあります。晴天でも積雪により表面を覆われた太陽光パネルは全く発電しなくなります。電力ひっ迫 新電力 エレクトリックライフ

この状況にどう立ち向かうか?

この状況を見れば、この先電力会社は燃料費調整価格だけでなく、電気代を上げざるを得ない状況にあることがわかります。これは私たちの生活を圧迫していくものですから、真剣に考えていく必要があります。今後電力の使用量を抑えることが出来なければ、ある日突然電力が停止され、ブラックアウトしてしまうなんてことも考えられます。電気が使えなくなる事を想像できるでしょうか。おそらく街中が相当なパニック状態に陥ることでしょう。

では、何から始めていくべきか?

電力の見える化と日々の確認が大事

新電力の殆どがオンラインで現在の電気の利用量などが分かるようになっています。これらを日々把握し、節電や効率的な電力の活用を考えていく事で大幅に電気の使用量を減らすことができます。自分達でも目標値を設定し、日々の電力使用量を数値を見ながら節約していく事から始めます。数値を見ないで漠然と気を付けるだけでは節約は絶対にできません。

それから、住んでいる環境の整備、有事に備えた装備の準備などが始まります。自宅の断熱効果を高めるリフォームや発電機やポータブル電源の用意、太陽光パネル、蓄電池など方法は様々です。

工夫次第で、コストをかけずにできる節電方法も沢山あります。これら情報収集を進めて、今後の電力ひっ迫に事前に備えましょう。

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