価格だけで決めていませんか?倒産リスクを避け、健全な新電力を見抜くポイント
工場の稼働やビルの運営に不可欠な高圧電力。しかし、昨今の電気料金高騰や、「新電力の倒産・撤退が過去2年で7倍に急増」といったニュース を目にし、「うちの電力会社は大丈夫だろうか?」「もっと安定的で信頼できる会社はないのか?」と不安を抱える担当者様も多いのではないでしょうか。
かつては「価格の安さ」が新電力選びの主な基準でしたが、市場環境が激変した今、その選び方は大きなリスクを伴います。
本記事では、東京電力などの旧一般電気事業者以外の選択肢を探している法人様向けに、数多くの新電力の中から倒産リスクを避け、長期的に付き合える「健全なパートナー」を見抜くための3つのチェックポイントを、専門家の視点から分かりやすく解説します。
なぜ新電力の倒産・撤退が相次いだのか?知っておきたい市場の裏側
2016年の電力自由化以降、多くの新電力(PPS)が誕生しましたが、近年、そのビジネスモデルは大きな試練に直面しました。
原因は「逆ザヤ」:電力の仕入れ値が販売価格を上回る異常事態
多くの新電力は、自社で大規模な発電所を持たず、日本卸電力取引所(JEPX)から電気を仕入れて販売しています。しかし、世界的な燃料価格の高騰などによりJEPXの取引価格が急騰。電気の仕入れ値が顧客への販売価格を上回る「逆ザヤ」状態に陥り、経営体力を失う企業が続出したのです 。
帝国データバンクの調査によれば、2024年3月時点で事業から撤退、または倒産・廃業した新電力は累計で119社にのぼり、これは2年前の7倍という厳しい現実を示しています 。
事業者の中には特定の分野からのみ撤退するケースも見られます。例えば、「ハルエネでんき」は法人向けの高圧・特別高圧の電力供給からは撤退したものの、家庭向けの低圧電力の供給は継続しています 。一方で、低圧電力の「ピタでん」ブランドを引き継いだ株式会社FPSのように、家庭向けの低圧事業から撤退する事例もありました 。
しかし、市場が混乱する一方で、この荒波を乗り越えた、あるいは乗り越える力を持つ企業も存在します。市場価格が落ち着きを見せ始めた今こそ 、真に体力のある企業を見極める好機と言えるでしょう。
失敗しない!健全な新電力を見抜く3つのチェックポイント
では、数ある新電力の中から、信頼できるパートナーをどう見つければよいのでしょうか。重要なのは以下の3つのポイントです。
ポイント1:【安定性の要】自前の発電所を持っているか?
最も重要なチェックポイントが、自社で発電所を所有・運営しているかという点です。
発電所を持たない新電力は、電力調達をJEPXに大きく依存するため、市場価格の乱高下というリスクを直接受けます。一方で、自社発電所を持つ企業は、市場価格が高騰した際の影響を緩和し、安定したコストで電力を供給できる、いわば事業上の「砦」を持っているのです。
【注目企業】日本テクノ株式会社 新電力の中でも、自社発電による安定供給を強みとしているのが日本テクノです。同社は千葉、新潟、茨城に大規模なLNG(液化天然ガス)火力発電所などを保有 。担当者が「価格で勝負するのではなく、電力のトータルソリューションを提供可能としている」と語るように 、単なる価格競争から一線を画し、顧客への安定供給を最優先する事業モデルを確立しています。
次に、料金プランが自社の事業スタイルに合っているかを確認しましょう。高圧電力の料金プランは、大きく2種類に分けられます。
- 固定単価プラン
- 特徴: 契約期間中、電気の単価(kWhあたりの料金)が基本的に固定されているプラン。
- メリット: 毎月の電気料金が予測しやすく、予算管理が容易。市場価格が高騰しても影響を受けにくい 。
- デメリット: 市場価格が安い時期でも、その恩恵を受けにくい。
- 市場連動型プラン
- 特徴: JEPXの市場価格に連動して、30分ごとに電気の単価が変動するプラン 。
- メリット: 市場価格が安い時間帯(例:深夜や休日)に工場の稼働をシフトするなど、使い方を工夫すれば電気代を大幅に削減できる可能性がある 。
- デメリット: 市場価格が高騰すると、電気代が想定以上に高くなるリスクがある 。
どちらが良い・悪いということではなく、自社の電力使用パターンを把握し、リスク許容度に合わせて選ぶことが重要です。一般的に、自社発電所を持つ電力会社は、価格変動リスクを自社で吸収しやすいため、安定した固定単価プランを提供する体力があると言えます。
ポイント3:【信頼の証】どんな会社が運営しているか?
最後に、その新電力がどのようなバックグラウンドを持つ企業かを確認することも、信頼性を見極める上で有効です。
- ガス・石油系(例:ENEOS、東京ガス、大阪ガス) 巨大なインフラと燃料調達力を背景に、電力事業を展開。ガスとのセット契約で割引を提供している場合もあり、エネルギーコスト全体を最適化したい企業にとって魅力的な選択肢です 。
- 再生可能エネルギー系(例:オリックス、SBエナジー) 太陽光や風力など、自社で開発・運営する再生可能エネルギー発電所を電源の中心に据えています。CO2排出量削減やESG経営を重視する企業にとって、事業目標の達成に直結するパートナーとなり得ます 。
- 独立系(例:日本テクノ) 特定の親会社を持たず、独自の戦略で事業を展開。日本テクノのように、発電・保安・コンサルティングまでを一貫して手掛けることで 、他社にはない付加価値の高いサービスを提供している企業もあります。
日本の自家発電設備保有・高圧電力供給事業者一覧
※()内は主要な発電資産ポートフォリオ
- 日本テクノ株式会社(LNG、太陽光、ディーゼル)
- ENEOS Power株式会社(石油火力、LNG、バイオマス、太陽光、風力)
- 東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社(LNG、太陽光、風力)
- 大阪ガス株式会社(LNG、バイオマス、太陽光)
- アーバンエナジー株式会社(石炭・ガス、廃熱)
- 株式会社JERA(LNG、石炭、石油、再生可能エネルギー)
- オリックス株式会社(太陽光、地熱、風力、バイオマス)
- SBエナジー株式会社(太陽光、風力)
高圧電力選びは「価格」から「価値」へ。自社の未来を託せるパートナーを見つけよう
新電力の淘汰が進み、電力市場は新たな局面を迎えています。これからの高圧電力会社選びで最も重要なのは、目先の価格の安さだけでなく、長期的な視点で「安定供給」と「信頼性」という価値を提供してくれるかどうかです。
今回ご紹介した3つのポイントを参考に、ぜひ貴社の事業にとって最適な電力パートナーを見つけてください。
- 安定性の要は「自社発電所」の有無
- コストの鍵は自社に合った「料金プラン」
- 信頼の証は企業の「バックグラウンド」
賢明な電力会社選びは、事業のリスクを管理し、持続的な成長を支えるための重要な経営判断です。この記事が、その一助となれば幸いです。