日本市場を研究し日本人に合わせた車を開発
2025年秋、東京ビッグサイトは再び未来のモビリティを夢見る人々で溢れかえっています。「ジャパンモビリティショー2025(JMS 2025)」の熱気の中で、ひときわ強い存在感を放つ海外メーカーがあります。それが、中国発のEV(電気自動車)大手、BYD(ビーワイディー)です。

2023年の前回開催時にも出展し注目を集めましたが、この2年間でBYDの日本市場における状況は大きく変化しました。JMS 2025は、BYDが「知る人ぞ知る」存在から、日本の一般消費者にとって「身近な選択肢」へと飛躍する決定的な舞台となるかもしれません。
この記事では、BYDが日本市場に上陸してからの歴史と取り組み、そしてJMS 2025を契機に、なぜ彼らがさらに多くの日本人に知られることになるのかを詳しく解説します。
BYDとは? EVバスから乗用車市場への挑戦
BYDは、もともと充電バッテリーのメーカーとして1995年に創業しました。その技術力を背景に自動車分野へ進出し、現在では世界トップクラスのEV販売台数を誇る巨大企業へと成長しています。
日本市場への参入は、実は乗用車よりも早く、2015年にさかのぼります。京都でEVバスを納入したのを皮切りに、BYDは日本各地の公共交通機関向けにEVバスのシェアを拡大。「走る広告塔」として、まずはBtoBの領域で着実に実績と信頼を築いてきました。

JMS2025でも新型のバスBYD K8などを展示、日本国内の路線バスのシェアを着実に拡大しています。
JAPAN MOBILITY SHOW2025でT35電気トラックを発表
今回のモビリティショーで、T35電気トラックを新たに発表しました。62kWhのバッテリを搭載し、満充電で250km走行可能。V2H/V2L対応のため、外部給電が可能です。

日本乗用車市場への本格上陸とこれまでの歩み
転機が訪れたのは2022年7月。BYDは日本法人「BYD Auto Japan」を設立し、日本の乗用車市場への本格参入を電撃的に発表しました。
1. 「e-Platform 3.0」と戦略的モデル投入
BYDの強みは、バッテリー、モーター、制御システムなどを統合した自社開発のEV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」です。これにより、高い安全性(特に「ブレードバッテリー」技術)と、競争力のある価格、そして長い航続距離を実現しています。

2023年1月、BYDは日本市場向けの第1弾モデルとして、ミドルサイズSUV「ATTO 3(アットスリー)」を発売。欧州での高い評価と、440万円(現在は418万円~)という戦略的な価格設定で、日本の自動車メディアやアーリーアダプター層の注目を集めました。

その後も矢継ぎ早に、コンパクトEV「DOLPHIN(ドルフィン)」、そしてスポーティセダン「SEAL(シール)」を投入。SUV、コンパクト、セダンという主要なセグメントをカバーするラインナップを短期間で揃え、本気度を示しました。

フラグシップセダンのBYD SEALですら販売価格は495万円~となっていて自治体の補助金などを合わせると400万円前半で購入できる。

2. ディーラー網の構築:「体験」の場を提供
EVが普及するためには、製品力だけでなく、販売網とアフターサービスの充実が不可欠です。特に「中国メーカー」という点に不安を抱く消費者が少なくない日本市場において、BYDは「体験」を重視しました。

全国各地に「BYD AUTO」ブランドの正規ディーラー網を急速に拡大。試乗や購入相談、メンテナンスを受けられる拠点を整備することで、「いつでも触れてもらえる、相談できる」という安心感を醸成する戦略をとっています。
日本市場の反応:期待と懐疑、そして『現在地』
BYDの日本上陸に対する市場の反応は、期待と懐疑が入り混じったものでした。
発売当初の反応:
- 品質への驚き: 試乗したメディアやユーザーからは、「内装の質感が高い」「走りがスムーズ」「(中国車という)先入観が良い意味で裏切られた」といった好意的な評価が多く聞かれました。
- コストパフォーマンス: 国産EVや他の輸入EVと比較して、同等以上の装備と性能をより低い価格で提供する点は、大きな魅力として受け止められました。
- 根強いブランドへの不安: 一方で、特に日本市場で重視される長期的な信頼性、リセールバリュー、そして全国的なアフターサービス体制の充実度については、購入をためらう最大の要因として根強く指摘されていました。
現在の市場: 販売台数自体は、日本の巨大な自動車市場全体から見ればまだ限定的です。しかし、輸入EVというセグメントの中では、着実に存在感を増しています。しかし、EVに関心のある層や、合理的な選択を重視する層を中心に、着実に支持を広げています。特に「DOLPHIN」は、日本の道路事情にマッチしたサイズ感と、国の補助金(CEV補助金)の活用で実質的な価格競争力が高いことから、都市部のユーザーや「初めてのEV」を検討する層から強い関心を集めています。
BYDは、こうした市場の反応を受け、単に車を売るだけでなく、前述の「ブランドへの不安」を払拭するためのイメージ向上にも努めてきました。話題性のあるテレビCMの放映や、多くの人が行き交う商業施設での実車展示イベントを積極的に行うことで、まずは「BYD」というブランドに触れてもらう機会を増やし、一般層への認知度と親近感の向上を図っています。
JMS 2025が「転換点」となる理由
そして迎えたJMS 2025。前回の出展が「日本市場へのご挨拶」だとしたら、今回は「本格的な攻勢の開始」を告げるものと言えます。

1. 圧倒的な物量と最新技術のアピール
BYDは今回、前回を大きく上回る規模のブースを展開しています。日本市場に投入済みの主力4車種(ATTO 3, DOLPHIN, SEAL, SEALION)の中から新型SEALION 6を展示。
SEALION6(シーライオン)6は、EV運用を心配する日本のユーザーが多い事から、PHEVモデルとして12月1日より発売を開始します。FWD駆動方式を採用、1.5リッターのエンジンとモーターで、EVでの走行は100km程度となっています。11月1日より予約開始。

BYDがここでPHEVを出さなければならないというのは、それだけ日本市場でEVがまだまだ受け入れられていないとも取れます。
そして、今回の注目の1つ、世界初公開となる軽EV「BYD RACCO」がお披露目となり、日本の軽自動車市場に新たな旋風を起こしそうな予感です。
愛着がわきそうな「ラッコ」というネーミング
ラッコというかわいい動物のネーミングの裏には、絶滅危惧種である動物でもあるという、地球の気候変動に対するメッセージもこめられていて、様々な思いが詰まった車である事も感じられる。

ミニバンタイプの4人乗りで、サイズは軽自動車のほぼ最大サイズ、3,395mm(全長)×1,475mm(全幅)×1,800(全高)mm。左右スライドドアとなっています。搭載バッテリはBYDのブレードバッテリーが搭載され、その容量は公開されなかったものの、ショートとロングレンジの2種類を用意し、2026年の夏に発売するとのこと。
すでに中国市場で発売が開始されている高級ブランド「ヤンワン」も展示
YANGWANG・U9(ヤンワン)は2023年の上海モーターショーで発表され、すでに量産化もされています。満充電での航続距離は700km程度で、0-100km/hは2.36秒と驚異的。価格は168万元(約3,500万円)で発売されています。

来場者は、BYDの技術的な幅広さと開発スピードの速さを目の当たりにし、「単なる低価格EVメーカー」ではないことを強く印象付けられています。
2. 「比較対象」としての存在感
JMS 2025では、トヨタ、ホンダ、日産をはじめとする日本メーカー各社も、次世代EVのプロトタイプを多数出展しています。消費者は、日本メーカーの提案する未来と、すでにグローバル市場で実績を上げているBYDの「今すぐ買える未来」とを、同じ会場で直接比較することになります。

この直接対決の構図こそが、BYDへの注目度を飛躍的に高める要因です。
3. 一般層へのリーチ拡大
JMSは、自動車マニアだけでなく、家族連れやテクノロジーに関心のある幅広い層が訪れるイベントです。ここで大規模な展示を行うことは、テレビCM以上に強力な認知拡大効果を持ちます。
「モビリティショーで見た、あのカッコいい中国のEV」という記憶が、街中でみかける”BYDショールーム”とリンクし、今後数年間、日本人の購買行動に影響を与えていくことは想像に難くありません。
日本のEV市場は新たなフェーズへ
BYDの日本市場での挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、EVバスでの地道な実績作りから、乗用車市場への戦略的なモデル投入、そしてディーラー網の構築と、彼らは驚くべきスピードと周到さで歩を進めてきました。
ジャパンモビリティショー2025は、BYDが日本市場において「黒船」から「本格的な競合」へとその姿を変える、象徴的なイベントとなるでしょう。私たち日本の消費者にとって、選択肢が増えることは歓迎すべきことです。JMS 2025を機に、BYDの名はさらに多くの日本人に知られることになり、日本のEV市場は新たな競争のフェーズを迎えることになりそうです。
ELECTRICLIFE – エレクトリック・ライフ! 電気自動車(EV)・電化・再エネ活用でカーボンニュートラル実現へ!