土曜日 , 12月 20 2025

なぜ山が削られる?メガソーラー建設の法律と「自然破壊」と言われる理由

悪徳建設業者が再エネのイメージダウンを加速させる

脱炭素社会の切り札として期待されてきた太陽光発電(メガソーラー)。しかし近年、山の斜面を大きく切り崩して設置されたパネルが土砂崩れの原因になったり、美しい景観を損ねたりする事例が後を絶ちません。

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なぜ、このような場所に建設されるのでしょうか?そして、それを止める法律はないのでしょうか?

本記事では、メガソーラー建設の背景にある仕組みから、現在の法規制、そして本来あるべき姿について解説します。

なぜメガソーラー建設が増えたのか?(建設の意義と背景)

そもそも、なぜこれほど急速にメガソーラーが増えたのでしょうか。大きな要因は国の制度にあります。

固定価格買取制度(FIT)の導入

2012年に導入されたFIT制度により、再エネで作られた電気を電力会社が「一定価格」で「一定期間」買い取ることが義務付けられました。

  • 投資メリット: 事業者にとって長期的な利益が見込めるため、多くの企業が参入しました。
  • 再エネ比率の向上: 日本のエネルギー自給率向上と、脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現には不可欠な要素でした。

なぜ「山の斜面」が狙われるのか?

「自然に優しいはずのエネルギーが、なぜ自然を破壊するのか?」という矛盾は、日本の地形事情とコストの問題が関係しています。

  • 平地が少ない: 日本は平地が少なく、広大な土地を確保するのが困難です。
  • 土地代の安さ: 山林や耕作放棄地は、都市部に比べて土地代が圧倒的に安く済みます。
  • 造成技術: 山を削り、木を伐採してパネルを並べる方が、複雑な市街地で権利調整をするよりも手っ取り早いという側面がありました。

山の斜面は絶対削ってはいけない!山の天然インフラ機能

一見、静かに佇んでいるだけの山ですが、実は24時間体制で私たちの暮らしを守る巨大なシステムとして稼働しています。メガソーラー建設のために山肌を削ることは、このシステムを破壊することを意味します。

1. 「緑のダム」機能(治水・保水)

山は、降った雨を一度に川へ流さないための巨大なスポンジのような役割を果たしています。

  • 本来の姿(森林):
    1. 雨粒は木の葉や枝に当たり、勢いを弱めて地面に落ちます。
    2. 地面にある「腐葉土(ふようど)」はスポンジのように隙間が多く、水をたっぷり吸い込みます。
    3. 吸い込まれた水は、地下水として少しずつ時間をかけて川へ流れ出ます。
  • 削った場合(メガソーラー):木もふかふかの土もないため、雨水はそのままの勢いで斜面を滑り落ちます。これが「鉄砲水」や下流地域の「洪水」を引き起こす直接的な原因となります。また、地下水が枯渇し、湧き水や井戸水が出なくなる弊害も生まれます。

2. 「天然のアンカー」機能(土砂災害防止)

なぜ、急な斜面でも山は崩れないのでしょうか? それは、木々の根が網目のように張り巡らされ、土を掴んでいるからです。

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  • 本来の姿(森林): 木の根は地中深く、そして横に広く伸び、土と岩を縫い合わせる「アンカー(杭)」の役割を果たしています。これが斜面を固定しています。
  • 削った場合(メガソーラー):根という支えを失った土は、ただの「不安定な泥の塊」になります。さらに、メガソーラー建設では平らな場所を作るために斜面を削る(切土・盛土)ため、地盤のバランスが崩れ、大雨の際に「地滑り」や「土石流」が発生しやすくなります。

3. 「生き物のゆりかご」機能(生物多様性)

「小山」であっても、そこは多くの生き物にとっての家であり、生態系のネットワークの一部です。

  • 本来の姿(森林): 虫、鳥、小動物が住処とし、それらが互いに食べ・食べられる関係(食物連鎖)を維持しています。また、山と山をつなぐ動物の通り道(コリドー)としての役割もあります。
  • 削った場合(メガソーラー): 生息地を奪われた動物(イノシシ、クマ、シカなど)が、エサや住処を求めて人里に降りてくるようになります。これが近年多発している「獣害」の一因です。また、フェンスで囲うことで動物の移動経路が分断され、地域の生態系全体が弱ってしまいます。

4. 「海を育てる」機能(栄養循環)

「山は海を育てる」という言葉をご存じでしょうか。山の役割は山だけで完結しません。

  • 本来の姿(森林): 森の落ち葉が分解されてできる栄養分(フルボ酸鉄など)は、雨水に溶けて川を通り、海へと運ばれます。これがプランクトンを育て、魚や海藻を豊かにします。
  • 削った場合(メガソーラー): 栄養分の供給がストップするだけでなく、工事によって泥水が川に流れ込むと、川や海の魚が呼吸できずに死んでしまったり、海藻が育たなくなったりする「磯焼け」の原因にもなります。山の破壊は、漁業にも悪影響を及ぼすのです。

メガソーラーに関する法律と「規制の穴」

これまで、多くのトラブルが発生した背景には、法規制の緩さや連携不足がありました。

① 森林法(林地開発許可制度)

1ヘクタール(10,000㎡)を超える森林を開発する場合、都道府県知事の許可が必要です。

  • 抜け穴: 過去には、開発区域を細かく分けて1ヘクタール未満に見せかけ、許可を逃れる事例(脱法行為)が横行しました(現在は規制強化の傾向にあります)。

② 環境アセスメント(環境影響評価)

大規模な開発が環境に与える影響を事前に調査する制度です。

  • 問題点: 以前は太陽光発電が対象外であったり、対象規模が「4万kW以上」と大きかったため、中規模なメガソーラーはチェックなしで建設可能でした(2020年から法改正で対象拡大)。

③ 条例(自治体ごとのルール)

国の法律が追いつかないため、多くの自治体が独自に「太陽光発電設備の設置に関する条例」を制定しています。

  • 現状: 「抑制区域」を設けたり、地元住民への説明会を義務付けたりしていますが、罰則規定が弱い場合もあり、強行する業者とのいたちごっこが続いています。

過去の違法・トラブル事例と最新の対策

ニュースでも度々取り上げられる、問題視された事例には共通点があります。

代表的なトラブル事例

  • 熱海市伊豆山土石流災害(2021年): 直接の原因は盛り土(盛土)でしたが、その上流部に太陽光発電計画があり、開発による保水力の低下が懸念されていました。
  • 奈良県平群町: 大規模なメガソーラー計画に対し、住民が「水質汚染」や「土砂災害」の懸念から反対運動を展開し、裁判に発展。虚偽の申請があったとして県が許可を取り消す事態となりました。

最新ニュースの論点(法改正の動き)

ご提示いただいたようなニュースでは、以下の点が強化されていることが報じられています。

  1. 改正再エネ特措法(2024年4月施行): 違反業者に対し、国が「認定の取り消し」や「交付金の積立(廃棄費用用)」をより厳しく求めるようになりました。
  2. 地域共生: 「地域と共生しない事業者は市場から退場させる」という強い方針が打ち出されています。

もっとも重要なのは「モラル」

すでにFITによる全量買い取りについては、電力の買い取り価格が低く事業にならないため、設置するメリットが無くなってきました。しかし、太陽光発電は発電の仕組みや建設コストなどあらゆる面で手軽にスタートできる再生可能エネルギーを生み出す仕組みです。

今後は、蓄電池などを絡めた電力コスト削減など、更に新しいテクノロジーと併せた利用が進むため、土地の地権者や建設業者のモラルと正しい知識、正しい利用方法が必要です。さもなくば、地域の人たちを巻き込む悲惨な災害を巻き起こしかねません。


本来あるべき「最適な場所」とは?

自然破壊をしてまで作る再エネに未来はありません。今、求められているのは「場所を選んで設置する」ことです。

設置場所メリット課題
工場の屋根・倉庫自然を破壊しない。電力の地産地消が可能。建物の強度確認が必要。
ソーラーシェアリング農地の上にパネルを設置し、農業と発電を両立。農業継続が条件であり、管理の手間がかかる。
ため池・水上水面を利用するため土地造成が不要。パネルの冷却効果で発電効率UP。景観への配慮や、メンテナンスの難易度。
平地の耕作放棄地使われていない土地の有効活用。農地法の許可が必要。
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ソーラーの下で野菜を生産するなどの取組も行われている

しかし、どこに設置しようとしたとしても、太陽光パネルやエネルギーを生産する場所であるという特性をしっかり理解した上で設置する必要があります。高電力が発生する設備であるため、周辺地域への影響は、景観だけでなく、従来のインフラにも大きく影響します。


私たちができること

再生可能エネルギー設備の建設は、エネルギー問題の解決策であると同時に、乱開発による環境破壊のリスクもはらんでいます。

これからの建設には、以下の3つの視点が不可欠です。

  1. 防災・安全性の確保(災害リスクのある場所には作らせない)
  2. 地域住民との合意(説明なき建設は認めない)
  3. 徹底した法令遵守(違反業者への厳格な処分)

なによりも重要な事は?

そしてこれらよりも重要な根本的な問題もあります。それは、電気を利用ている我々の「電気への知識」です。私たちユーザーも電力についてしっかりと理解しておかなければ、建設される設備が周辺地域にとって有効なものなのか、それとも有害なものなのかを正確に判断できなくなります。

建設業者や地権者の利権のためだけに行われているものなのか、自分たちが住むエリアでの電力事情などと併せて考えていかなければなりません。

私たち市民も、「再エネだから良い」と盲信するのではなく、「その電気はどこで、どのように作られたのか?」に関心を持つことが、無秩序な開発への抑止力になります。

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About エレクトリックライフ編集長

電子回路・エネルギーの専門家。太陽光発電、エネルギー貯蔵、電気自動車やソーラーカーの研究を行う。これらの知見を活かし、2050年のカーボンニュートラルに向けた電力の有効活用を研究している。 弱電から強電まで広いエリアを専門として、エネルギー、特に電力の上手な活用を一般に広く広めるための活動も行っています。 保有車両:テスラモデルY2025前期

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