2025年版、ステランティス徹底解説
「ステランティス」という企業名に、まだ馴染みがない方もいるかもしれません。しかし、「ジープ」「プジョー」「フィアット」「シトロエン」といったブランド名は、多くの人が知るところでしょう。これら14もの個性豊かな自動車ブランドを束ね、2021年に誕生したのが、世界第5位の自動車メーカー、ステランティスです。
自動車業界が100年に一度の大変革期を迎える中、ステランティスは「EV(電気自動車)へのシフト」と「カーボンニュートラル」という2つの大きな課題にどう立ち向かっているのでしょうか。
この記事では、ステランティスの壮大な未来戦略「Dare Forward 2030」を軸に、同社のEV戦略とサステナビリティへの本気度を、誰にでも分かりやすく徹底解説します。
ステランティスとは?14の有名ブランドを束ねる巨大自動車グループ
ステランティスは、2021年1月にイタリア・アメリカ系のFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とフランスのグループPSAが対等合併して誕生した、比較的新しい企業グループです 。しかし、その傘下には長い歴史と熱狂的なファンを持つ14のブランドが名を連ねています。
【ステランティス傘下の主要ブランド一覧】
- アメリカ: ジープ、ラム、クライスラー、ダッジ
- フランス: プジョー、シトロエン、DSオートモビルズ
- イタリア: フィアット、アルファロメオ、マセラティ、アバルト、ランチア
- ドイツ/イギリス: オペル、ボクスホール
この多様なブランドポートフォリオこそが、ステランティスの最大の強みです。高級車から大衆車、SUV、ピックアップトラックまで、あらゆる市場のニーズに応える製品ラインナップを誇ります。
未来への設計図「Dare Forward 2030」が示すEV戦略
ステランティスは、電動化と持続可能性を経営の核に据えた長期戦略計画「Dare Forward 2030」を掲げています。これは、単なるEVの生産計画ではなく、企業としてのあり方を根本から変革しようとする野心的な試みです。
野心的な電動化目標:2030年までに欧州100%、米国50%をEVに
ステランティスは、EVシフトに対して非常に明確で高い目標を設定しています。
- 2030年までに、欧州での乗用車販売の100%をBEV(バッテリー式電気自動車)にする
- 2030年までに、米国での乗用車・小型トラック販売の50%をBEVにする
- 2030年までに、グローバルで75車種以上のBEVモデルを投入し、年間500万台のBEVを販売する
この目標達成に向け、すでに各ブランドから魅力的なEVが続々と登場しています。
EV戦略の心臓部「STLAプラットフォーム」とは?
これらの多様なブランドからEVを効率的に生み出すための切り札が、「STLA(ステラ)」と呼ばれる4つの次世代EVプラットフォームです。
- STLA Small小型車(シティカー、コンパクトカー)フィアット、プジョー、オペルなど
- STLA Medium中型車(セダン、SUV)プジョー、DS、ランチアなど
- STLA Large大型車(パフォーマンスカー、大型SUV)ダッジ、ジープ、アルファロメオなど
- STLA Frameフルサイズ(ピックアップトラック、大型SUV)ラム、ジープなど
これらのプラットフォームは、EV専用設計でありながら、ハイブリッドや内燃機関にも対応できる柔軟性を持っているのが最大の特徴です 。これにより、世界各地域のEV普及のスピードに合わせて、最適なパワートレインを提供できる体制を整えています。CEOは、プラットフォームを共有しつつも、各ブランドが独自の「個性」を維持することを約束しています 。
バッテリーはどうする?世界5拠点のギガファクトリー計画
EVの心臓部であるバッテリーの安定確保は、EV戦略の成否を分ける重要な要素です。ステランティスは、2030年までに260GWh以上のバッテリー生産能力を確保するため、欧州と北米に合計5つの「ギガファクトリー」を建設する計画を進めています 。メルセデス・ベンツなどとの提携を通じて、大規模な生産体制を構築しています。

中国市場での新たな一手:EV新興「零跑汽車(Leapmotor)」との提携
世界最大のEV市場である中国では、従来のアプローチを転換。2023年に中国のEVスタートアップ「零跑汽車(Leapmotor)」に約15億ユーロを出資し、戦略的パートナーシップを締結しました 。これにより、競争の激しい中国市場で開発されたコスト効率の高いEV技術を活用し、欧州や南米などグローバル市場での販売を加速させる狙いです。
「儲かるサステナビリティ」へ。ステランティスのカーボンニュートラル戦略
ステランティスのもう一つの柱が、カーボンニュートラルへの取り組みです。同社はこれを単なるコストや義務ではなく、新たな収益を生み出すビジネスチャンスと捉えています。
2038年カーボンネットゼロ達成という高い目標
At Stellantis, we are committed to becoming the industry champion in the fight against climate change, reaching carbon net zero emissions by 2038.
ステランティスは、2038年までにサプライチェーン全体を含めたカーボンネットゼロを達成するという、業界でも特に野心的な目標を掲げています。その中間目標として、2030年までにCO2排出量を2021年比で50%削減することも宣言しています。すでに2023年には、世界のCO2排出量を2021年比で12.6%削減するなど、着実に成果を上げています。
注目すべき「サーキュラーエコノミー」事業とは?
この目標達成の鍵を握るのが、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」というユニークな取り組みです。これは、使用済みの自動車や部品を廃棄物ではなく「資源」と捉え、ビジネスに繋げる試みです。
その核となるのが「4R戦略」です。
- Reman(リマン):使用済み部品を分解・洗浄し、新品同等の品質で再製造する。
- Repair(リペア):摩耗した部品を修理して再利用する。
- Reuse(リユース):まだ使える中古部品を回収し、**再利用(再販)**する。
- Recycle(リサイクル):使用済み車両や生産くずを原材料として再資源化する。
この事業は、2030年までに20億ユーロ(約3,000億円)以上の収益を目指す成長事業と位置づけられています 。再製造された部品は、新品よりも20~30%安価でありながら品質保証も付くため、消費者にとっても大きなメリットがあります 。環境に貢献しながら、新たな収益源を確立する。まさに「儲かるサステナビリティ」を体現する戦略と言えるでしょう。
FCAとPSAの合併から生まれたステランティスは、その巨大なスケールと多様なブランドポートフォリオを武器に、EVとサステナビリティという時代の要請に対して、極めて現実的かつ多角的な戦略で挑んでいます。
- 柔軟なEV戦略:マルチエネルギー対応の「STLAプラットフォーム」で、市場の変化に柔軟に対応。
- パートナーシップの活用:中国の「零跑汽車」との提携で、低コストEV技術を迅速にグローバル展開。
- 収益化するサステナビリティ:「サーキュラーエコノミー」を成長事業の柱に据え、環境貢献と収益を両立。
テスラやBYDといった新興EVメーカーが市場を席巻する中、ステランティスのような伝統的な巨大メーカーがどのように変革を遂げるのか、世界中が注目しています 。その壮大な挑戦は、まだ始まったばかりです。