2022年、ようやく日本の消費者がEVを意識する
2022年寅年がスタートしました。寅年でも壬寅(みずのえとら)と言われる年で、新しいものが生まれたり、新しく成長していくなどの意味があるようです。
世界の名だたる自動車メーカーが数年先のEV戦略を発表済みの中、2021年末ようやく世界のトヨタがEV戦略についての発表会を行いました。この発表会は突然開かれたわけですが、”しかたなく発表した感”が非常ににじみ出ているものとなってしまいました。おそらくトヨタとしてはこんな発表をしたくなかったが、EVに対する消極的なイメージを払拭するために行われたのでしょう。実際多くのネットニュースなどでトヨタのEV対応への遅れを指摘されていて、TVCMなどで水素自動車だけを押しているようにも見えるため、トヨタはEVに力を入れていないとの見方が強くなっていったのでしょう。
bz4Xは本当に年内の納車がスタートするのか?
やはり世界のトップ自動車メーカーとしてのトヨタがEVを推し進めていかないと日本国内でのEV化は盛り上がっていきません。トヨタは繰り返し「選択肢を増やす」として、EVを中心に進めるとは言っていません。ただし他の日本車メーカーに引けを取らないように研究は進めていて、今後の投資額も他社を圧倒しているというのが2021年末の発表でした。
トヨタは2019年には中国大手自動車メーカーである比亜迪自動車(BYD)とEV開発で合意し、2020年4月にはBYD TOYOTA EV TECHNOLOGYという合弁会社を設立、同年5月からEVの共同開発を行なっています。BYDは2015年から京都をはじめ日本国内各地のローカルバスにEVバスを納入しています。
またEVのバッテリーについても2017年からパナソニックと協議を行い、2020年4月には角形バッテリーパックの開発を行う「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ」という合弁会社を設立しました。その後、2021年9月には1.5兆円規模のバッテリー開発を行うとし、その後その規模を2兆円に増額しています。
しかし現実として、トヨタブランドから発売されている乗用車のEVは2022年1月1日現在でも1台もリリースされておらず、グループでもレクサスからUX300eが発売されているだけとなっています。
一方でEVの共同開発を行なっているBYDは、日本市場で乗用車として「e6」の発売を表明していて、この車体はすでに中国、シンガポールでタクシーとして利用されていることから、自治体や法人向けに販売をスタートします。この車体、WLTCモードで522kmの航続距離を達成していて、実用使いでも450km程度は達成することが予想されます。中国で生産されている車を日本仕様に改良して販売を開始できるわけですから、2022年には輸入し導入する自治体やタクシー会社などが現れることでしょう。
では、トヨタが発売を予定しているbz4Xがいつ日本で発売されるかということです。日本のトップ自動車メーカーであるトヨタが初めてEV用のプラットフォームでリリースするEVです。2021年4月に発表されて、2022年中頃からの発売を発表していますが、半導体や電池、その他部品の流通が全体的に鈍化している中、本当にこの納車が2022年中に実現するかが懸念されます。
もちろんこれは国産車全体に言えることで、電子部品や電池については海外生産にたよっているサプライチェーンでは日産のアリアを含め、bz4Xの兄弟車でもあるスバルのソルテラについても同様のことが懸念されるためです。
現在最高の国産乗用EVは日産リーフ
現在国産車として大手自動車メーカーから販売されている乗用車EVは日産リーフを筆頭に、レクサスのUX300e、ホンダが販売するHonda e、マツダのMX-30eというたったの4車種しかありません。注文できるEVとしては日産が2022年後半に発売を予定しているアリアを含め5種類になります。
現在販売されている中で完全電気自動車としてその性能が実用使いにおいて最高といえるのは、やはり日産リーフです。日産が10年以上コツコツと積み上げてきた電気自動車としての性能は、自動車の枠を超えた住宅の設備としての性能も兼ね備えているため、単純にEVとしての比較だけでは収まりません。
自動車として高級車のような乗り心地とEVらしいワンペダルドライブ、40kWhのバッテリー容量は戸建て4人住まいのおよそ2日分の電気容量を兼ね備えていて、e+であれば62kWhと3日分になります。このバッテリーは、充電設備を充放電可能なV2Hの設備にすることで、家庭用の蓄電池となります。国産車で他にV2H可能なEVは、Honda eで、35.5kWhの電池を搭載しています。このV2H可能なEVは災害時には蓄電池として役立つのですが、車が蓄電池になっているわけですから、自宅に系統からの電力供給が途絶えてしまうような災害が発生した場合、電力供給されているエリアに車で自宅のエネルギーを”取りに行くことができる”ということにもなります。
日産リーフの航続距離は40kWh搭載モデルでWTLCモードで314km、編集部が実際に乗った感じでは240km〜280kmの航続距離を達成しているため、実用使いにおいても問題ないスペックになっています。
長距離走行にしても、リーフのナビで探せば町中に充電スポットはあるわけで、高速道路ならSAには充電スポットも設置されています。今後はこの充電スポット渋滞やその厳格なルール作りが求められています。
2022年のリリースが決まっている国産EV
2022年に販売すると言われているのが日産アリア、トヨタbz4X、スバルsolterraです。日産アリアは2021年夏から予約がスタートしていて、すでに多くの予約が入っています。
2021年4月に発表されたトヨタbz4Xについては2022年1月1日現在でも日本市場での価格すら発表されておらず、兄弟車ともいえるほぼ同等のスペックのスバルsolterraは2021年11月に発表され、こちらも日本市場での価格が発表されていません。
この機を逃さない海外勢
では、日本市場で販売されている海外のEVは現状どのようになっているでしょうか。様々なメディアでも言われている通り、海外市場では電動化、特に完全電気自動車(EV)へのシフトがものすごい勢いで進んでいます。そのため販売されているEVの種類も多く、販売数も伸びています。
一方で日本国内の販売台数は選択肢の少なさやディーラーでも力を入れて販売を行なっていないということもあり、低迷しています。日本自動車販売協会連合会が発表した直近2021年11月の乗用車EVの販売台数を見ても、日産がトップで1,162台、続いてトヨタが36台、ホンダ35台、マツダ4台、輸入車の合計では914台となっています。ほぼ日産リーフが国産EVの販売台数を稼いでいます。しかしPHVを含むガソリンを使って動く車の販売台数は186,499台でEVの構成比は1%程度ということになります。
この状況でEV購入に対する補助金投入
このように日本市場ではEVはまだまだ普及していない状況で、かつ大手自動車メーカーもラインナップを揃えていない状態です。ここに経済産業省は2022年3月から受付を開始するEV購入を最大で80万円サポートする補助金を投入してきます。海外勢としてはこのEVブルーオーシャンである日本市場で、補助金も用意されているなら参入しない手はないということになります。
ヨーロッパ勢はすでにEVを多数ラインナップ
日本でも人気の高級車セグメントであるメルセデスベンツやBMWはすでに複数台のラインナップを日本市場でもリリースしていて、2022年にも新しいEVのリリースを発表しています。
フォルクスワーゲンもヨーロッパ市場でIDシリーズをリリースしていて、ID.3、ID.4などは人気車種となっていて、2022年にはID.5を発売すると発表し、77kWhのバッテリーを搭載してWLTPモードでおよそ520km程度の航続距離を実現しているため、こちらもコンパクトSUVとしては人気車種になることは間違いありません。
日本でも若年層を中心にユーザーを増やすテスラ
EVの中でも自動運転の技術でリードしているのがテスラです。2021年2月に日本市場においてModel3を大幅値下げしたことや環境省からのCEV補助金などを活用することでようやく大衆車セグメントと言える価格帯に入ってきたこともあって若年層を中心に人気が出てきています。
テスラModel3は自動車というより「未来の乗り物」と言った感覚です。コックピットでの操作は全てタッチパネルモニタで行います。これはテスラのハードウェアの制御はほぼ全てソフトウェアで行なっているということです。そのためソフトウェアがアップデートされることでハードウェアの制御の仕方も変わるため、モーター制御などがアップデートされて燃費性能が向上されたり、自動運転のセンシングの処理などもアップデートされてきます。
2021年末には米国フリーモント製のModel3とModel Sに対して大量リコールのニュースが流れるなどしていますが、日本国内でのサービスセンターも徐々に増えていて、課題であるサポート体制が改善されていけば、自動運転技術などでリードしているテスラへの評価はさらに上がっていくでしょう。
本当にすごいのは中国
すでにEV大国となっている中国には魅了的なEVが沢山ラインナップされています。先日今後のEV戦略を発表した中国のEVスタートアップNIO(ニオ:上海蔚来汽車)はグローバルに向けた大衆車セダンET5を発表しました。また同じくEVスタートアップのXpeng(シャオペン:小鵬汽車)も大衆車セダンP5の発売を発表しました。どちらもTesla Model3を意識したモデルとなっていますが、より高い性能を示しています。
すでに高性能な5車種をリリースするNIO
この車はあらゆる面で先進的で、まずは搭載バッテリーを最大150kWhまで可能にし、1回の充電での航続距離1,000kmを達成しています。AI搭載アシスタント「NOMI」が車の操作を音声で可能にし、ドライバーとNOMIとがコミュニケーションをとれるようにもなっています。
自動運転技術も独自のNADを開発し、超長距離高解像度LiDARとレーダー、超音波、ドライバー監視カメラなど複合的なセンシングシステム「Aquila Super Sensing」と、運転支援システムNIOパイロットと合わせてソフトウェアのアップデートによりその性能を高めていっています。
さらにAR/VR技術でNeal Airという眼鏡型端末を利用した車内エンターテイメントも開発を進めていてet5で実用化するとしています。
NIOは電池や充電インフラも画期的なシステムを展開しています。EVがガソリン車と比較され非難される場合によく引き合いに出される充電時間の問題ですが、5分で200kmを充電できる急速充電スポットの設置だけでなく、NIOはバッテリースワップというシステムを世界に先駆けて採用しています。これは、スワップステーションに車を入れてバッテリーパックごと交換してしまうというものです。こちらも5分程度で満充電のバッテリーパックへと交換が完了するため、ガソリン車よりも早くエネルギーを満タンにして発車することができるわけです。このサービスにはサブスクリプションも用意されていて、車体と電池パックを別々に考え、車体は購入しバッテリーはリースなどのような選択も可能です。
2021年12月の段階で、すでに中国国内に730箇所以上ものスワップステーションが設置されていて、2022年末までには1300箇所以上に増やし、スーパーチャージャーも6000箇所以上に増やすと発表しています。
EVの普及にはこの電気を使ったインフラの整備も同時に行なっていくことが非常に重要ですが、NIOは様々な角度からEVを快適に利用していける環境づくりも行なっていると言えます。
ET5はグローバルで2022年より納車が開始される予定です。先日行われたNIO DAY 2021では、2025年までにNIOのグローバル展開を推し進めていくということを発表しましたが、その中に日本市場も含まれてはいるものの深く言及はされていません。NIOから見ると日本市場はあまり魅力的な市場ではないのでしょう。
NIOは2014年の設立以来ここまで5車種をリリースし、EV普及率の高いノルウェー市場への輸出も開始しています。
もう1つのスタートアップXpeng(シャオペン)
2014年創業のシャオペンもまた中国のEVスタートアップで、2018年にG3というSUVクラスのEVをリリースし、以降P7、そして2021年9月には大衆車としてのP5を発表しました。
Xpengもまたインテリジェントカーシステムとして独自のXmartOSを開発し、将来の完全自動運転に向けたXPILOT3.0も進化し続けていて、オートレーンチェンジや車体周辺を360°センシングし周囲の状況を把握、レーンの適切な場所を安定して走行できる運転支援システムとなっています。
Xpengについても日本市場への投入などを具体的には発表しておらず、やはり主戦場はヨーロッパ、北米などのEVの普及が進みそうな地域となっています。
中国自動車メーカービック5は日本市場へ
NIOもXpeng もいつかは日本市場へ入ってくるでしょうが、やはり重要視しているのはヨーロッパ、北米などへのプライオリティが高くなっています。しかし中国自動車大手ビック5は、中国市場にてトヨタ、日産、マツダ、ホンダ、スズキなどと合弁会社を立ち上げているため、これら自動車メーカーは日本市場へと参入してくる事でしょう。
<中国ビック5と主な合弁企業>
- 第一汽車(FAW)− トヨタ、マツダ
- 上海汽車(SAIC)− 日本との合弁なし
- 東風汽車(DFM)− ホンダ、日産、
- 長安汽車(CHANGAN)− スズキ
- 奇瑞汽車(CHERY)− 日本との合弁なし
ビック5の中の最大手、第一汽車はすでに2021年12月に日本一号店となる店舗を大阪にオープンしました。ここでは高級車ブランドである紅旗(ホンチー)のH9シリーズを日本市場に投入し、2022年夏にはEVもリリースするとしています。
物流大手SBSホールティングスは東風汽車集団傘下の東風小康汽車が生産するEVトラックの導入を発表しています。SBSホールディングスは今回のEV導入については京都のEVベンチャー「フォロライ」が設計し、中国で製造するEVを導入予定で、その一部を東風小康汽車から導入する予定です。
日本のファブレス企業が商用車を中国で製造
佐川急便が日本のファブレス企業であるASF株式会社と共同で企画設計を行い、中国の広西汽車集団傘下の「柳州五菱汽車」がその製造を行い、日本の道路に最適な貨物EVを開発しています。こちらも2022年9月ごろから7200台の納車が予定されています。このような形で日本のEVスタートアップが企画・設計を行い小型EVを開発し、製造は中国で行なって輸入するという流れが起こり始めています。
EVは内燃機関車のように複雑な部品が少なく、開発コストも少なく済むため、今後もこのような企業が多く出てくることが予想されます。
日本再上陸を目指す韓国「ヒョンデ」
2001年に日本市場に参入し、2010年に撤退した「ヒュンダイ」はグローバルでの呼び方を「ヒョンデ」と改名し、日本への再上陸を目指しています。撤退後も日本法人は存在していて日本のマーケットの研究は行われていました。
ヒョンデもやはり日本市場へはEVやFCVなどの環境車を中心とした展開を狙っています。まずヨーロッパ市場などでも高い評価を受けているIONIQ5は、高い充電性と77kWhの大容量バッテリーで、EPAサイクルで480kmの航続距離を達成しています。この大容量バッテリーを有効活用できるように車から電気製品などに電気を供給できるV2Lにも対応しています。
IONIQ 5の大きな特徴の一つとして車内の居住空間やシートアレンジなどもあります。前後の座席はどちらもシートがスライドできるようになっていて、運転席と助手席の間のセンターコンソールなどは、フラットな床を自由にスライドして後部座席からも利用できるようになっています。
IONIQ5は既に日本の公道を走っているという目撃情報も多数あるため、間も無く日本上陸ということになりそうです。
傘下のKIAも、EV6をグローバルで販売を開始しています。IONIQ5が採用しているE-GMPというEVに特化したシャーシを使用しています。こちらは58kWhと77kWhの2種類のバッテリー容量が用意されていてそれぞれWLTPサイクルで380km、510kmの航続距離を実現しています。こちらは間も無く納車が開始される予定です。こちらもIONIQ5同様にV2Lにも対応しています。
ヒョンデグループではこの2台のEVを皮切りに、2025年までに23車種のEVを市場投入する予定です。恐らく日本市場ではTesla Model3やVWのID.5などを意識して、価格での競争力も高い設定が予想されています。
日本メーカー不在の2022年
現在日本で唯一実用使いとして優れたEVは日産リーフだけと言っても過言ではありません。2022年3月から受付が始まるEV補助金については外部給電機能がついた車両については最大で80万円の補助が出て、その他EVについては60万円ということになります。
ここまでで注目すべきは海外勢はすでにヨーロッパなどや日本市場で発売しているEVがすでにあり、走っているということです。既に車両があるのであれば、日本仕様に改良してリリースが可能ですが、トヨタbz4Xやスバルsolterra、日産アリアについてはまだ量産されたものが走っていないということです。
2022年にはここまで紹介してきた様々な海外勢が日本市場への納車を開始し、日本でも順調にそのシェアを伸ばしているテスラなどの500万円を切るような電気自動車戦争が国産車として日産リーフだけで展開されるということです。
今年はこのような話題があちこちで議論されることになり、いよいよ多くの一般消費者が日本の電気自動車の遅れに気づくことになるでしょう。
日本のEVベンチャーなどはファブレス企業として設計などを日本で行い、その製造は中国の自動車メーカーに依頼します。これは昨今の半導体や電池の安定供給が日本で受けられなくなっている問題を解決するためにも必至ということです。
かつてMade in Japanの家電品があっという間になくなり、工場は中国に移り低価格で高性能な家電が日本に供給されるようになったように、中国の高性能なEVメーカーの技術を搭載した中国製の「トヨタ」や「日産」「スバル」「マツダ」の車両が日本を走ることになるでしょう。
家電メーカーの下請け企業の多くが工場を閉め、業種転換や転職を余儀なくされたように、自動車業界が二の轍を踏んだ場合、どのような展開がまっているのか。電気自動車時代には自動車だけでなく住宅での電化によりエネルギーの活用やインフラの整備から新しいモビリティやそれらを活用した新しい産業の創出が重要な課題となっていきます。
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