テスラが直面する歴史的な岐路
テスラは現在、「極めて重要な転換点」3つの重要提案が株主に諮られます。
テスラの取締役会(イーロン・マスク氏とキンバル・マスク氏を除く)は、これらの提案が継続的な株主価値の創造能力にとって極めて重要であると見なしており、すべての提案に対して「賛成」票を投じるよう株主に強く推奨しています。
取締役会が提案する3つの重要議案
提案番号 | 議案名 | 目的 |
提案4 | 2025年CEOパフォーマンスアワードの承認 | イーロン・マスク氏を長期的にテスラに留め、次なる成長をインセンティブ化する。 |
提案3 | 2019年株式インセンティブプランの修正・再承認 | 優秀なAI人材確保と、2018年CEOアワードに関する訴訟上の不確実性に対処する。 |
提案1 | クラスIII取締役3名の再選 | 継続的な成長と成功に不可欠な経験豊富な取締役会のガバナンス体制を維持する。 |
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提案4:2025年CEOパフォーマンスアワード(次期CEO報酬プラン)
この提案は、イーロン・マスクCEOに対し、テスラでの将来の貢献を促す長期的なインセンティブプランがない現状に対応するために、取締役会特別委員会によって設計されました。
1. 報酬体系:株主との100%連動
この報酬案は、2018年の成功例を基盤とし、株主と100%連動した「ペイ・フォー・パフォーマンス(成果報酬)」の枠組みを採用しています。
• マスク氏の報酬条件: 「信じられないほど野心的な」およびオペレーションマイルストーンの両方を達成できなければ、マスク氏は何も受け取りません。
• 成功時の目標: マスク氏がすべてのマイルストーンを達成した場合、テスラの時価総額は8.5兆ドルに達し、テスラは「史上最も価値のある企業」になることが期待されます。
2. 達成目標:数十億ドルから数兆ドルへの飛躍
2018年アワードがテスラを数十億ドル規模で成長させる必要があったのに対し、2025年案では数兆ドル規模の成長が求められています。
• 創出価値の目標: 2025年9月3日時点のテスラの時価総額(約1兆ドル)と比較し、このアワードを完全に受け取るためには、株主のために約7.5兆ドルの追加的な市場価値を創出する必要があります。
• 対象株式: 10年間のパフォーマンス期間にわたり、423,743,904株(12のトランシェに分割)の取得機会が設定されています。
3. 市場価値マイルストーン(時価総額目標)
12段階の時価総額マイルストーンが設定されており、最も低い目標は2兆ドル、最終目標は8.5兆ドルです。これらの目標は、6暦月の移動平均および30暦日の移動平均で維持される必要があります。
4. オペレーションマイルストーン(戦略的および財務的目標)
時価総額目標と同時に達成が求められる、テスラの次なるビジョン(Master Plan Part IV)に関連した野心的な目標です。
分野 | 目標例 |
戦略目標 | テスラ車の累計納車台数 2,000万台、FSD(Full Self-Driving)のアクティブなサブスクリプション数 1,000万件、ボット(Bots)納入台数 100万台、商用稼働中のRobotaxi(ロボタクシー)台数 100万台。 |
財務目標 | 調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)が500億ドルから始まり、最終的に4,000億ドルの目標(4四半期連続の非重複期間で3回)が設定されています。これは、直近(2025年第2四半期LTM)の調整後EBITDA(約152億ドル)と比較して約26倍に相当する水準です。 |
5. 継続勤務と後継者計画の要件
獲得した株式は、獲得後5年間は保有が義務付けられています。また、株式の付与を受けるためには、マスク氏は適用される7.5年または10年の権利確定期間を通じて継続的な勤務を続ける必要があります。
さらに、最終の11番目と12番目のトランシェを獲得するためには、マスク氏が取締役会と協力して長期的なCEO後継者計画の枠組みを策定する必要があるという条件が設定されています。
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提案3:2019年株式インセンティブプランの修正・再承認
株式報酬は、テスラの報酬哲学の基本であり、特に熟練したAI研究者やエンジニアの獲得・維持における競争が激化する中で、十分な株式準備金を確保することが不可欠とされています。
1. 一般株式準備金(タレント層向け)の補充
• 追加株式数: 6,000万株。
• 目的: 現在および将来の従業員、取締役、その他の適格なサービス提供者への報酬付与を継続するための十分な株式を確保し、従業員と株主の利益を一致させる強力なオーナーシップ文化を維持するためです。
• 注意点: この6,000万株の増加分は、イーロン・マスク氏への報酬には使用されません。
2. 特別株式準備金(2018年アワードに関する不確実性解消)の設定
• 追加株式数: 207,960,630株。
• 目的: 係争中のTornetta訴訟によって引き起こされている、2018年CEOパフォーマンスアワードを巡る不確実性に対処するためです。
• 取締役会の裁量: この準備金により、訴訟の状況にかかわらず、取締役会は裁量でマスク氏に2018年アワードで獲得した未払いの株式を付与できる柔軟性が得られます。
• 「二重取り」の防止: 取締役会は、訴訟が終結しテスラが勝訴する前に報酬を付与した場合でも、マスク氏が2018年アワードの下で得られた以上の実質的な追加利益を受け取らないこと(「ダブルディップ」の機会はないこと)を確約しています。
提案1:クラスIII取締役3名の再選
テスラは、次の成長段階を支えるために、経験豊富なリーダーシップと強固なガバナンス体制が不可欠であるとして、以下の3名のクラスIII取締役の再選を求めています。
1. イラ・エーレンプライス(Ira Ehrenpreis): エネルギー、テクノロジー、ベンチャーキャピタル業界のリーダーであり、コーポレートガバナンスや戦略的成長に関する洞察を提供します。彼はテスラの例外的な成長期を通じて、指導者としての役割を果たしてきました。
2. ジョー・ゲビア(Joe Gebbia): Airbnbの創業者であり、ビジョナリーなテクノロジー創業者としての経験があり、デザイン、イノベーション、ブランド開発の専門知識を提供します。
3. キャスリーン・ウィルソン・トンプソン(Kathleen Wilson-Thompson): 長年の公開企業での幹部経験(人事専門家としての経験を含む)を持ち、テスラが直面するガバナンス上の課題に対して不可欠な洞察を提供しています。彼女は、過去2年間のガバナンスに関する特別委員会に参加しています。
テスラの過去の成果と未来のビジョン
2018年アワードの実績
2018年CEOパフォーマンスアワードの期間中、テスラは株主総利回り(TSR)で約1,100%7350億ドルの価値が創造されたとされています。
また、テスラは2017年の20億ドルの純損失から、2025年6月30日までの直近12か月(LTM)では59億ドルの純利益(GAAP)を達成する企業へと変貌しました。車両納車台数も2017年の103,184台から2024年には1,789,226台に増加しています。
次なるビジョン:Master Plan Part IV
今回の報酬提案は、テスラが最近発表した「Master Plan Part IV」を支えるものです。この長期ビジョンは、「Sustainable Abundance(持続可能な豊かさ)」の実現を目指し、AIを物理世界にもたらすことにより、労働、交通、エネルギーを再構築することを目標としています。具体的な製品・サービスには、ボット(Bots)、Robotaxi(ロボタクシー)、そしてFull Self-Driving(FSD)が含まれます。
マスク氏のリーダーシップは、AI、ロボティクス、サステナビリティといった新しい製品を開発するテスラの次の章を導く上で極めて重要であり、彼は「タレントの磁石」として優秀なAI人材をテスラに引きつけるために不可欠であると位置づけられています。
株主への要請と投票方法
テスラ取締役会は、今回の提案が株主にとって過去最も重要な選択肢の一つであると繰り返し強調しており、株主に対し、すべての提案について取締役会の推奨通りに「賛成」票を投じるよう強く要請しています。
株主総会は2025年11月6日に開催されますが、株主はオンライン、QRコード、電話、または郵送のいずれかの方法で今すぐ投票することが推奨されています。
>>株主投票ページへ
日本の株主が投票するための方法(国際株主としての扱い)
資料に「日本の株主」という具体的な言及はありませんが、テスラは国際的な株主が投票できるように複数の手段を提供しています。日本の株主は、自身の株式の保有形態(証券会社やブローカー経由など)に応じて、以下のいずれかの方法で投票することが想定されます。
投票方法 | 詳細 |
オンライン投票 | 証券会社(ブローカー)から送られるメール(例:id@proxyvote.com からのメッセージ)または郵送された議決権行使書に記載されているユニークな管理番号(control number)を使用して、proxyvote.com から投票できます。 |
QRコード投票 | 郵送された議決権行使書にQRコードが含まれている場合、それをスキャンして投票できます。 |
電話投票 | 郵送された資料に記載されている固有の管理番号を使用して、電話で投票できます。特に、米加以外の国(all other countries)の株主向けに以下の電話番号が案内されています。 |
郵送投票 | 議決権行使書に署名し、日付を記入して、同封の返信用封筒で返送します。 |
サポート連絡先: もし投票手続きで不明点がある場合、テスラのプロキシソリシターであるInnisfree M&A Incorporatedに連絡することができます。米国およびカナダ以外のすべての国の株主向けの電話番号が提供されています。
• 株主向け(米国およびカナダ以外): +1 (412) 232-3651 (all other countries)
注意点: ほとんどの株主は東部時間(Eastern time)の11月5日午後11時59分までに投票を提出する必要がありますが、ブローカーによっては締め切りが早まる場合があるため、今すぐ投票することが推奨されています。
株主の懸念事項への対応
資料は、株主が議決権行使の前にこれらの議案に関する重要情報を確認するよう促しており、テスラは米国証券取引委員会(SEC)に提出された資料(Definitive Proxy Statementなど)を通じて詳細を確認できるとしています。日本の株主も、これらの公開情報(SECのウェブサイトやテスラのIRページ)を通じて、十分な情報に基づいて投票を行うことが求められています