30@30政策でEV化を本格化
タイ政府は2030年までに自動車生産台数の30%を電気自動車(EV)にするという「30@30」政策を推進していて、世界の国々が2050年のカーボンニュートラルを目指す中、タイ政府も二酸化炭素についてはカーボンニュートラルを2050年までに実現するとしています。
この目標達成のために、特にCO2排出量の多い分野であるエネルギー、輸送、産業の3分野においてカーボン税の導入を検討するなどしていて、早期に再生可能エネルギー仕様に転換していこうという政府の強い意志が感じられます。
こういった状況を見て、ここ数年、世界のEVメーカーはタイ市場での販売に力を入れていて、その販売台数が急拡大しています。特に中国製BEVの輸入が急増していて、世界各国で販売エリアを広げているBYD(比亜迪)やNETA(哪吒汽車)、MG(名爵)などがそのシェアを伸ばしています。
タイと言えば、1960年代に日系の自動車メーカーが進出して現地工場を設立し、タイ国内でも販売を行っていたため、2022年までは日本車のシェアは85%程度ありました。
EVの普及率については2022年までは1%程度だったものが、2023年には約12%まで伸び、2024年末までに欧米並みの20%に達すると予想されています。
タイ市場での売れ筋EV
タイ政府はEVの普及を促すために2022年から車両本体価格にかかる物品税について、通常の8%から2%になる減税を行いました。更に新車購入補助金を用意し、1台あたり7万~15万バーツ(日本円で30万円~60万円程度)の補助金の支給を開始しました。
【2023年タイ市場での売れ筋EV】
- 1位:BYD ATTO3 ---- 19,214台
- 2位:NETA V ----- 12,777台
- 3位:BYD DOLPHIN --- 9,410台
- 4位:ORA GOOD CAT -- 6,712台
- 5位:TESLA Model Y --- 5,881台
車種別のランキングでは、BYDの車両が2車種、1位のATTO3についてはダントツの1位となっています。欧米で人気のTESLA Model Yは5位で、上位5位のうち4車両が中国のEVメーカーのものになっています。
日本では全くなじみのない2位のNETA Vは中国の合衆新能源汽車(Hozon Auto)が手掛けるEVで、中国大手自動車メーカー「哪吒汽車」のEVブランドとしてNEV(次世代エネルギー車)の開発を行う企業です。特に東南アジアを中心にその販売網を強化していて、すでにタイでの現地生産も開始しています。
4位のORA GOOD CAT(好猫)も中国市場を中心にタイでそのシェアを伸ばしているEVです。今後東南アジアを中心にそのシェア拡大を狙っていますが、2位のNETAも4位のORAも日本市場進出は明言していません。
【2023年タイ市場EVメーカー別順位】
- 1位:BYD(比亜迪) ---- 30,650台
- 2位:NETA(哪吒汽車)--- 12,777台
- 3位:MG(名爵)------ 12,764台
- 4位:TESLA -------- 8,206台
- 5位:ORA(欧拉)------ 5,881台
メーカー別を見ても上位5位の中に中国のEVメーカーが4社入っています。
なぜ中国メーカーの車両が人気を集めているのか?
上位ランキングを見ても中国勢がそのほとんどを占めているタイのEV事情ですが、それにはタイ政府と中国政府との関係性などがあげられます。まず大きいのがFTA(自由貿易協定)による中国製EVにかかる関税が0%という事です。欧州や米国からEVを輸入して販売する場合の関税率は80%と非常に高く、例えば500万円の自動車で比較すると、中国製なら500万円で購入できるのに対し、欧米・米国からのEVは関税を入れると900万円とかなり高額になります。日本の場合、日本タイ経済連携協定(JTEPA)を利用すれば20%の特恵関税率で輸入が可能ですが、それでも同じ500万円の車が600万円になってしまいます。
EVエリアにも中国の投資が溢れている
これだけ優遇されるというのは、中国政府からの多額の投資マネー流入があるという事があります。更に先にも述べた2030年までに自動車生産台数の30%を電気自動車(EV)にするという「30@30」政策の中で用意されている補助金を受けて輸入販売を行った中国メーカーは、補助金を利用して販売した台数と同数の車両を2024年以内に生産しなければならないというルールがあります。
つまりは、タイ国内に工場を持ってEVの生産を行う必要があり、これはタイにある自動車部品メーカーとの協業が発生し、タイ国内中小企業の売り上げ向上と雇用拡大につながる狙いがあります。もしその約束が2025年にずれ込んだ場合は1台販売あたり、1.5台を生産していかなければならないというペナルティもあります。すでに上海汽車グループのMG(名爵)などタイ国内に工場を持つ中国EVメーカーもあるが、その他のEVメーカー2024年からの生産に向け工場の建設を開始しています。
このような取り組みは中国メーカーだけでなく、日本や欧米のEVに対しても適用可能で、日本製EVであれば0%、欧米車両については40~60%まで関税を引き下げる関税免税処置も実施していますが、同様に将来的な現地生産を約束することになり、各国政府がタイへの投資を行うかどうかにもかかっています。
このような形でタイの工業団地に生産拠点を作らせるという取り組みになっています。
更に大型商用EVの普及策を発表
タイ政府は2024年より更なるEV産業成長のための投資を促進するため、2024年から4年間にわたるEV推進第2段「EV3.5」をスタートさせました。これにより、富裕層が購入しそうな200万バーツ(日本円でおよそ820万円)を超える高級車への補助金を少なくし、それ以下の車両では補助金額が多く設定されるという形になり、ピックアップトラックや電動二輪車にも補助金を支給するとしました。
更に、これらのEV振興政策を補完する形で、商用EVを購入した場合にも法人税の減免につながるメリットを提示し、国内のEVバス製造業者からの購入促進と、市中を走り回るバスの電動化によりカーボンニュートラル実現を加速させていくようです。
EVの普及は民間の「意識改革」も重要な役割の1つ
世界で着々と進む自動車の電気自動車(EV)化は、単に排気ガスが無くないり、CO2や温室効果ガス(GHG)の削減に寄与するという事でなく、電気のエネルギーが身近に広がっていく事で、様々な分野に更なるカーボンニュートラルに向けた「意識改革」を提供するものとなります。
カーボンニュートラルへの取組として、一般市民が最もわかりやすく身近に感じることができるのがEVへの乗り換えです。わかりやすく排気ガスがなくなり、電気のエネルギーを家庭から取り、どれくらいの電気量でどれくらい走行できるかなどがわかるようになり、その電気的コストが可視化されてきます。
まずは我々の住む「市中からカーボンニュートラル」が始まるという事を意識し、その後1か所にまとめられたCO2をどのように削減し、利用していくかを考える第一歩になるのです。
タイのように行政が積極的に補助金だけでなく、政策として産業構造にメスを入れるような事が出来ていない日本では、民間の意識改革しか残された道はないのかもしれません。