スズキが打ち出した2030年に向けた成長戦略
2023年1月26日、軽自動車のラインナップを豊富にそろえる自動車メーカー「スズキ(SUZUKI)」が7年後の2030年に向けた成長戦略を発表しました。スズキが主要マーケットとして事業展開している日本、ヨーロッパ、インドを軸にして、カーボンニュートラル社会の実現に向けた近い未来の具体的な戦略となっています。
日本やヨーロッパ諸国については2050年までのカーボンニュートラルを掲げていますが、インドについては2070年のカーボンニュートラルが目標となっていて、その地域差も考慮に入れたロードマップとなっています。
総額4.5兆円の投資、売り上げは7兆円を目指す
今回発表された内容で驚くべきは、そのスケジュール感と投入される費用です。それは2030年という7年間という短いスパンに多額の資金を投入し、そしてその内容がかなり多分野にわたり具体的に示されています。主要メーカーが2050年に向けた戦略と、その中間までの漠然とした発表をする中、今回の発表からのスケジュール感から、SUZUKIの本気度が伝わってきます。
スズキはグローバル企業であるため、地域性を考慮したカーボンニュートラルに取り組んでいくとしているため、主要マーケットである「インド」でのカーボンニュートラルに向けたソリューションである「バイオガス」への取り組みは、自動車が関わる新しいエネルギー活用サイクルとして注目すべき内容です。
日本の国内工場のカーボンニュートラル化
スズキの国内最大の生産拠点は静岡県湖西市にある軽乗用車や船外機などを組み立てる工場です。この工場ではすでにエネルギー効率化が行われCO2排出量の30%削減を達成しています。更に2輪車を生産する浜松工場では2030年のカーボンニュートラルを目指していたものの、既に多くの取り組みに成功していて、その計画を2027年へと前倒しもしています。
浜松工場でのカーボンニュートラル化の事例を展開して、2035年までには国内の生産拠点すべてをカーボンニュートラル化するとしています。
電気自動車に係る工場は脱炭素化
EVはガソリン車と比較して部品点数が圧倒的に少ないため、生産時のCO2排出量は少なくなるものの、バッテリ生産時や処分でCO2を排出するためエコでないという根拠のない情報を耳にすることがありますが、大きな転換期を迎えた自動車メーカーが「電動化」という時代を迎えるにあたり、これらEVの生産工場については新しい生産体制の確立が必要であり、それと同時に社会的責任としての温室効果ガス削減は必須事項となっているわけです。スズキだけでなく、ほぼすべてのメーカーがこの取り組みを発表し、すでに工場の脱炭素化を実現したメーカーもある事を私たち消費者は理解しておく必要があります。
ついに日本市場で軽EVを投入する
注目したいのは、やはり電気自動車(EV)の投入についてです。2023年1月、インドで開催されたAuto Expo 2023において、EVコンセプトモデルとなる「eVX」を発表しました。スズキは軽自動車のイメージが強くありますが、世界各国でSUVモデルもリリースしています。今回のコンセプトモデルについてもコンパクトSUVとなっていて、スズキらしいエクステリアのモデルになっています。eVXについては2024年にインドでの量産化を目指しています。
日本市場は軽商用EVからスタート
今回の2030年に向けたロードマップの中で、日本市場での軽EV投入時期は2023年であることが発表されました。スズキと言えば商用の軽バンとしてエブリイやキャリイが人気となっていますが、このあたりがEV化され、しかも今年から発売が開始されるというタイムラインには驚かされます。
ホンダも同様に軽商用EVを発表しましたが、その発売は2024年春としています。
エブリイなどは、商用車をカスタムして利用する個人ユーザーも多いことから、これら商用車がEV化していく事で、日々街中を走る商用車からの温室効果ガスを市中から削減し、地域の環境改善に役立っていくことでしょう。
そして、2030年までに日本市場では6モデルのバッテリーEVをラインナップするとしていて、パワートレイン比率をハイブリット車(HEV)80%、完全電気のバッテリーEV(BEV)は20%として、すべての電動化をめざしています。
スズキは世界12か国で四輪シェアNO.1
スズキは日本では軽自動車のメーカーとして国内2位(昨年1位はダイハツ)の位置に居ますが、グローバルでは208か国で販売されていて、四輪車のシェアで12か国でNO1を獲得しています。特に中東からアフリカにかけた今後人口増加とGDPが急成長することが予想されている国でのシェアを獲得していることもあり、2030年の成長戦略を裏付ける材料の1つになっています。
バイクや船外機もバッテリーEV化
スズキはグローバルでバイクや船の船外機も展開しています。まず電動バイクは2024年から2030年までに8モデルを市場にリリースするとし、バイクでのパワートレイン比率を内燃機関(ICE)80%、BEV20%とするとしています。
そして、船外機もグローバルでBEV化をすすめるとして、2024年から市場に投入し、2030年までに5モデルを展開するとしています。船のエリアでのEV化は電動化が難しいとされてきましたが、SUZUKIはチャレンジングに小型船舶への投入を進めていくようで、2030年までにBEVの販売比率を5%にするとしています。
海洋ゴミなどは環境問題として大きく取り上げられています。特に海に流出したマイクロプラスチックが海洋生物や環境を破壊し、生態系の持続可能性を脅かしています。スズキの船外機には、すでに「マイクロプラスチック回収装置」を搭載したものを実用化し、2022年7月から5機種に標準搭載しています。
納得の成長戦略で今後注目!
今回の発表は消費者に分かりやすい内容で、かつそのスピード感と具体性が示されたものになっていました。2030年はあと7年でやってくる近い未来です。特に2023年から軽EVの日本市場での投入を皮切りに、グローバルで2024年からEVを展開し、それは四輪車だけでなくあらゆる分野へ展開していくとしています。その中で、工場のカーボンニュートラルや海洋ゴミ対策、そして新しいエネルギー活用により新しい視座での脱炭素化などがしっかりと盛り込まれていました。
このタイムライン通りに進んだ場合、2030年には2021年の倍となる7兆円の売り上げに到達するとしていますが、陸・海・空と様々なエリアに環境を配慮しながら係る企業であることから、そのシナジーが効き始めると目標数値を大きく上回ってくるのではないかとの期待すら持たされてしまいます。
日本発のグローバル企業として注目です。